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ピストンが傷だらけなのにも、理由があるいまさら聞けない エンジン設計入門(1)(1/3 ページ)

「新品やのにめっちゃ傷だらけっすよ!」「あほか!」――ピストンやシリンダにわざわざスジを入れる理由をきちんと理解している?

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 車全体の基本構造を知っているかどうかは自動車の設計においては非常に重要です。またほかの業種の方々も本連載を通じて自動車の基礎知識を身に付けていただき、幅広い観点で今後に生かしていただきたいと思います。

 今回の連載では基本的に「ガソリンエンジン」をベースに解説していきます。また現時点では基礎知識の全分野を網羅するには不完全ですが、素人向けに自動車の基礎知識を説明するサイト「カーライフサポートネット」を運営しております。もし、この連載の内容が難しく感じられる方は、そちらで勉強してください。

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ピストンとは?

 「エンジンの構成部品といえば?」と聞かれれば、真っ先に思い浮かぶのは「ピストン」ではないでしょうか?(写真1)

 そのピストンの形状の1つ1つにも意味があります。ここでは「4サイクルエンジン」を例にして説明します。

シリンダーに収まっているピストン
写真1 シリンダーに収まっているピストン(上部からのぞいた様子)

 ピストンはシリンダ内を往復することによって「吸入」「圧縮」「燃焼」「排気」の4行程を繰り返しているわけですが、燃焼によって取り出される爆発力を効率良く受け止めてクランクシャフトの回転力に結び付けるためにさまざまな工夫がされています。その代表的な工夫の1つが、「ピストンスカート」部にある切り欠きです(図1)。

ピストン
図1 ピストン

 ピストンはコンロッド(ピストン直下のクランクシャフトをつなぐアーム)とピストンピンによって連結しています。ピストンはピストンピンを中心にして左右(図1で見ると、X軸方向)に首振り運動ができますが、軸方向は固定されていますので基本的には動きません。

 シリンダ内をピストンが往復するとき、ピストンとシリンダとのクリアランス分だけピストンの首振り運動が生じて打音が鳴ります(ガチャガチャ音。「ピストンスラップ」といいます)。これを極力抑えるためにピストン外形にある程度の高さを設けて首を振りづらくします。

 先述の通り、ピストンピンの軸方向はふらつかないので擦れません。実際に走行後のエンジンを分解してピストンを見てみると分かりますが、ピストンスカートはピストンピンの径方向しか擦り減っていません。擦れない部分は機能的に必要がないといえるので、カットして軽量化してしまいます。それがピストン・スカート部のアーチ状の切り欠きです。

 ピストンは高速で往復運動をしますので、少しでも軽い方が運動時の妨げにならないということですね。軽量化という観点で見れば、ピストンスカートを少しでも短くしたりピストンヘッド部からピストンリングのトップリングまでの距離を短くしたりとさまざまな工夫がされています。

エンジンと熱膨張

 ピストン形状を考えるうえで、先述した軽量化よりも重要な項目があります。それは「熱膨張」です。ピストンは常に超高温&高圧な状況下で往復運動を繰り返す部品ですので、軽量なのはもちろん「強靱(きょうじん)性」「耐熱性」「耐摩耗性」にも優れている必要があります。

 これらを踏まえると、基本的にはアルミニウムに銅やシリコン(ケイ素)、ニッケルなどを含ませた「アルミニウム合金」が素材として選ばれるわけです。しかしアルミニウム合金は熱膨張係数が大きい素材ですので、熱膨張を見越していろいろな工夫がされています。

 まずピストンを側面から見てみましょう(図2)。

ピストンの側面図
図2 ピストンの側面図

 ピストンヘッドの径(A)よりもピストンスカート部の径(B)の方が大きくなっています(円錐(えんすい)形)。これは、ヘッド部は燃焼時の熱が直接触れる部分であり、“一番高温になる部分=一番膨張する部分”だからです。

 次にピストンスカート部を下部から見てみましょう(図3)。

ピストンの下面図
図3 ピストンの下面図(ピストンピンはX方向が軸)

 ピストンボス側(ピストンピンを支える部分)の径(C)がその直行方向の径(D)よりも小さくなっています(楕円形)。ピストンボスは強い力を受ける部分ですので必然的に肉厚が厚くなっています。「肉厚が厚い=金属量が多い」となりますので、ほかの部位よりも熱膨張量が大きいことになります。つまりあらかじめ熱膨張量のアンバランスを見込んでピストンボス側の径を小さくしておく必要があるのです。

 熱膨張というのは、ピストンだけに限らず、エンジンとは切っても切れない関係があります。

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