車のリコールに学ぶ 命を吹き込む設計:甚さんの設計分析大特訓(9)(2/3 ページ)
世を騒がせた自動車のリコール問題も、設計思想に問題があった。それもたった3円の小さな部品が原因だという。
急増する自動車のリコール
良君、いまここにちょいと古いが新聞記事がある。某大手自動車企業のリコール記事だ。これを設計分析しようじゃねぇかい!
ハイ! ハイ! もう、9回目ですから、慣れてきました。
設計者なら、ガキのように騒ぐんじゃねぇ! じゃ、いまから行くぜぃ!
急増する自動車のリコール
かつて、リコール隠しが発覚した某自動車会社の事件に関する回収費用は180億円以上といわれています。その後、世の中の人たちはその自動車会社の車を買わなくなりました。リコールによるダメージは金額的な損失だけではなく、企業にとって重要な資産である信頼やブランド力が一瞬にして崩壊してしまうのです。
また、別の自動車会社では、1つの電子部品(抵抗)の欠落が、約72万台の大量リコールにつながったといいます。
この自動車が国土交通省に届け出たリコールの内容は、エンジンのイグニッションスイッチです(図1)。
イグニッションスイッチが入ると、自動車に搭載されているバッテリーから大電流がプラグへ流れ、スパーク(放電)によってガソリンに引火しエンジンが掛かります。しかし、プラグに電流が流れる前にこのイグニッションスイッチの接点部で大きなスパークが発生する場合も考えられます。よって、ここにはスパーク発生防止のために「抵抗」を入れるのが一般的です。
もし抵抗がなければ、スイッチを入れる度に接点が電気的に融解して接触圧力が低下してしまう。その結果、走行時の振動などで導通不良となる恐れがある。
つまり、最悪の場合、走行中にエンジンが突然停止するわけだ。パワーステアリングもブレーキも利かないよ。ドライバーは、パニックに陥るだろうな。
このイグニッションスイッチは、同社の共通部品(標準部品)として使われていたため72万台ものリコール台数に拡大してしまったんだね。
良君! Good Jobだ。さすが、富士山麓大学の院卒だ。図面は描けなくても、分析力はありそうだ! つまり設計的には、こうだ。
前文でも述べましたが、低コスト化のため、たった3円(推定)の電気抵抗を省いてしまったために、イグニッションスイッチ部でスパークが発生し、突然にエンジンが停止するトラブルが発生したのです。
ここで甚さんは、良君に次のことを命じました。
いいか、良君! もともと存在していた3円の抵抗の『設計思想とその優先順位』をいってみぃ!
分かりました。次に示す図2ですね。
そうだ、近ごろ、さえているじゃねぇかい。オメェは、花粉症の季節の方がさえるのはどうしてだ?
どうせ、そうですよ。花粉対策にヨーグルトを食べているからかな?
まあ、どっちでもいい。それより、設計分析して図2の優先順位表に『信頼性』の単語があれば、それでいい!
あっ! 甚さん、分かりました。『信頼性』がノミネートされるべきだったにもかかわらず、たった3円の抵抗を、いとも簡単に省いてしまったのですね。
ノミネートって何だ? 酒の話かぁ? そうか! オメェ、今夜はオレサマと一緒に『一杯、飲みネ〜ト』ってかぁ?
ンモー! また、オヤジギャグですか? それにしても、3円の「抵抗君」がかわいそうですね。『3円切りか?』
世知辛いご時世をおちょくった言葉を平気で使うな! 『三つ子の魂、百まで』、もとい『3円の抵抗にも百の魂』とか、いえねぇのかい?
なぁるほど! 標準部品や共通部品というと、そのネーミングだけで安くて安心という感じがするけれど……それでは、まさに3次元モデラーの選択法なのですね。
そのとおりです!
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