車のリコールに学ぶ 命を吹き込む設計:甚さんの設計分析大特訓(9)(3/3 ページ)
世を騒がせた自動車のリコール問題も、設計思想に問題があった。それもたった3円の小さな部品が原因だという。
部品の命とは?
良君のセリフと重複しますが、企業内で設定した「標準部品」や「共通部品」を使用するといえば、安心、安全、低コストと聞こえはよいのですが、当の部品に役目を与えなくてはなりません。つまり、「設計思想とその優先順位」の設定をして、「命(使用目的の明確化)」を与えなくてはならないのです。
この設定を怠ったため、たった3円の電気抵抗は、3次元モデラーによって、いとも簡単に省かれてしまったのです。
なぁるほど! 命あるものは、おいそれとは、捨てられないはずですね!
オメェ、最近、おかしいんじゃねぇかい? やけにさえているじゃねぇかい? 今回はオレ、1度も殴っていないし」
デヘヘ……それは『甚さんの設計分析大特訓』のおかげです。でも、もう一例、教えてくださいね。
事務機器や自動販売機には電磁クラックが多用されています。慢トラ(マントラ、慢性トラブル)と一部の業界では呼ばれています。この“電磁クラッチ君”は悪くありません。使う側が原因の不具合が多いのです。
例えば、複写機やレーザープリンタの場合ですが、電磁クラッチが安易に選択され、押し込まれている場合が見られます。その場合、クラッチが滑ったり、異常発熱したり、発煙したりなどのトラブルが発生します。その対策は、電磁クラッチメーカーを変えたり、ワンランク上の電磁クラッチを再選定したりしますが、その期待に反してトラブルが再発してしまいます。
その真の原因は、図3の電磁クラッチ君の「設計思想とその優先順位」を設定していないためです。
ここに、3次元モデラーによる「形だけのトラブル対策」と、設計者による「真のトラブル対策」との大きな差異があることに気が付いてください。
ウーム! 今回の3次元モデラーと設計者の相違は圧巻でした。そして、その差異に大きなショックを受けましたよ!
そうだろう? トラブルの対策一つとっても、設計の奥深さが理解できただろう。設計者の実力と、3次元CADのモデリングテクニックとは違うってことよ。
フフン。僕もいよいよ、モデラーから卒業かなっと。
良君。『甚さんの設計分析大特訓』も次回で終了としようじゃねぇかい。
ええっ? 甚さん! スミマセンッ、卒業はいい過ぎましたっ。僕はまだまだ、修行不足ですって。そんなこといわないでください。
今回の第9回はいかがでしたか?
近年、企業の低コスト化として、「標準部品化」「共通部品化」、そして、単なる部品レベルではなく、多くの部品の集合体である「ユニット化」、さらに大掛かりな「モジュール化」、そして大きな「プラットフォーム化」が推進されています。
筆者が数社に対して設計コンサルティングし分析すると、トラブルも「標準化」され、「プラットフォーム化」されているのが分かります。当然、後者にいくほど、トラブルの規模も大きくなります。
その原因は、「標準化」の部品や、「プラットフォーム化」したアッセンブリに「命」を吹き込んでいないばかりか、他社のまねをしているだけにすぎない企業がほとんどです。
技術の神様は、どこかの企業の真似だけで低コスト化を期待する企業に対して、社告やリコールというきついしっぺ返しをするようです。
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それでは、次回(最終回)をお楽しみに!
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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