トランスミッションのシフトってどうなっているの?:いまさら聞けない シャシー設計入門(1)(1/3 ページ)
「私はオートマ限定だから」って敬遠しないで!? 今回はマニュアルトランスミッションの変速の仕組みについて解説する。
本連載ではシャシーの基礎である「動力伝達装置」や「ブレーキ装置」「ステアリング装置」などに焦点を当てて解説していきます。
自動車の部品設計には、メーカーごとに独自の技術やノウハウを集結させているものです。本連載では「いまさら聞けない エンジン設計入門」と同様に、基礎的な部分や一般論に加え、筆者がいままでの経験から得た知識などを織り込んで解説をしていきます。
トランスミッションとは?
「トランスミッション」とは動力伝達装置の1つであり、エンジンで発生した動力を車の走行状態に応じて任意もしくは自動で適切なトルク&回転数に変化させる装置です。“任意”と表現した装置が、今回説明するマニュアルトランスミッション(以下、「MT」)であり、“自動”というのがオートマチックトランスミッション(以下、「AT」)を意味しています。
ご存じの方も多いと思いますが、現在の日本の乗用車に搭載されているトランスミッションは95%以上がAT車であり、MT車の位置付けは「一部の車好きが乗る」といった風潮にまでなっているのが現状です。いまでも進んでMT車に乗っている筆者にとっては非常に寂しいことですが……それが現実です。
MTの軽トラックに慣れた人や、「昔からMTしか乗っていないからATが乗れない」という人などを除けば、MTはある意味マニアックといえるでしょう。しかしこのような風潮になったのは意外と最近である1990年代のことです。
80年代は、まだまだMT車が主流であり、AT車というのは一部の高級車などにしか設定されていなかった時代でした。ところが90年代に入ってから電子制御の進化によるAT技術の大幅な進化に加え、オートマチック限定免許が創設されたことによって、一気にMT車主流からAT車主流へと移行したのです。
一度AT車に乗ってしまうと、運転の簡単さや快適さに誰しも魅了されてしまうものなのかもしれません。そしていまや、本当に一部の人たちしかMT車を選択しないようになってしまった――こういった時代背景を考えると、AT機構から説明するのが妥当でしょうか? しかしATはMTをベースとして進化してきたので、ATを理解するためにもMTを知っておく必要があるでしょう。それにトランスミッションの基本そのものを考えるなら、やはりMTの構造を説明していくのが一番分かりやすいと思います。
さて、一般的なMTの主な構成部品は、
- クラッチを介してエンジンの動力を受け取る「メインシャフト」
- 「カウンタシャフト」(機種によって役割が異なる)
- 各シャフトに設けられる「ギア」
- 任意のギアを選択する「シフトフォーク」
- 変速時に回転数が異なるギアを同期させる「シンクロメッシュ機構」
- 後退するための「リバースアイドルギア」
となります。
上記で、「トランスミッションとは車の走行状態に応じて適切なトルク&回転数に変化させる装置」と表現しましたが、これはすなわちメインシャフトとカウンタシャフトに設けられたギアの組み合わせを変えることで「変速比」を変化させ、適切な動力伝達を行っていることを指しています。
次に、トランスミッションを考えるうえで極めて基本的な仕組みである「変速比」について少し説明しておきましょう。
変速比の基礎
非常に身近な変速比の例として、筆者がいつも挙げるのは、変速機構付きの自転車です。手元にあるレバーを操作することで、ペダルが軽くなったり重くなったりしますね。ペダルが軽くなるギアの場合は、自転車を漕ぐ操作に必要な力が非常に少なくて済みますが、逆に前に進む能力が低下(進む量が少なくなる)します。これは変速比が大きくなっており、「トルクが増えて回転数が減った」状態です。
逆にペダルが重くなるギアの場合は、自転車を漕ぐ操作に必要な力は大きくなります。しかし前に進む力は非常に優れている(進む量が多い)状態です。これは変速比が小さくなっており、「トルクが減って回転数が増えた」状態です。
これらは全てギアの組み合わせにより行われる機械的な変化です。ギアの組み合わせとは、つまり「駆動するギアA」と「駆動されるギアB(受動)」のことです(図1)。
その変速比は、
受動ギアの歯数÷駆動ギアの歯数
で求めることができます。
例えば先ほどの自転車の場合、ペダルに直結する前のギア(駆動)歯数が20で後輪に取り付けられているギア(受動)歯数が40だとすると、
40÷20=2
と求めることができます。つまり変速比が2となります。
この「2」という数字が表す意味は、「トルクが2倍、回転数が2分の1」ということです。
先ほどの例ですと、駆動ギアが20で受動ギアが40ということは、ペダルを1回転漕いでも、後輪は2分の1回転となります。つまり出力時の回転数が2分の1となっているので、先ほどの計算で求められた数字と一致していますね。その代わり、トルクが2倍になっているので、駆動・受動ギア歯数が同じ場合と比べて2分の1の力でペダルを漕ぐだけでよいのです。
ここから分かるように、この変速比が有効なのは、例えば坂道を登るときのような「力が必要なとき」ですよね。変速比は、「力が必要なとき」「速度が必要なとき」などの条件の変化に応じて使い分けます。もちろんトランスミッションも、この変速比あってのものといっても過言ではありません。
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