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工場で大人気の“ムダ取り”は本当に効果ある?会社のムダを根こそぎ撲滅! TOCスループット(2)(3/3 ページ)

TOCでは「原価計算は生産性の最大の敵である」と主張する。現行の会計制度に存在する矛盾を明らかにし、企業の継続的な利益創出を支援するTOCスループットの基本を紹介しよう。

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在庫を削減するムダ

 在庫や仕掛かり在庫を削減するに当たっても、スループットの考え方は大変有効に機能します。確かに在庫削減は作り過ぎのムダを削減しますし、TOCでも在庫投資(I)の削減を推奨しています。また膨大な在庫を管理する費用は業務費用(OE)であり、在庫削減は業務費用を削減するうえでも有効です。

 しかしやみくもに在庫を削減した場合、欠品による機会損失や、日常的な資材の督促によって、逆に管理費用が増大する場合があります。この問題はどのように考えたらよいのでしょうか。

 ゴールドラット博士は「この問題は指標間のトレードオフである」と指摘しています。つまり、過剰在庫(I)の場合にはそれに要する管理費用(OE)は単なる業務費用の流出として考えればよいのですが、ある一定以上の在庫削減にはスループットと業務費用の間にトレードオフの関係が成立するのです。

 例えばDBRの仕組みの中では、ネック工程に設置されるバッファーの長さをどの程度取るべきかという問題です。少ないバッファーは在庫を削減させますが、工場内のさまざまなトラブル(TOCではマーフィーと呼ぶ)の影響を受けやすくなりスループットが失われ、督促費用は増大する結果となります。反対にマーフィーを怖がるあまり長時間のバッファーを設定すれば在庫は増えることになるのです。

ムダ取りのムダ

 生産工程に限らず分業を前提とした業務は、それぞれを能力という観点から比較すると、アンバランスになっているのが普通です。これまでの常識では、

  アンバランス=手待ちの発生

ととらえ、好ましくないものと考えてきました。そしてすべての工程の能力バランスを追求し、それぞれの工程の稼働率を100%に近づけること、すなわち「誰もが忙しく働くこと」が最適な解を求める近道であると考えてきたのです。

 むろん7つのムダの定義によれば「手待ちのムダ」は撲滅しなければならないわけですが、これを「リストラ」という手段で撲滅しようとすると、とんでもないことが起こります(図1)。

図1 手待ちのムダをリストラで撲滅すると……
図1 手待ちのムダをリストラで撲滅すると……

 図1のように、AからDまで4つの工程があり、B工程の能力が一番弱い(ボトルネック工程)だとします。B工程以外のA、C、Dの工程は能力的には余裕があり、手待ちが日常的に発生しています。このラインの効率を高める(稼働率を上げる)ために、各工程の人的資源をリストラしたらどうなるでしょうか。

 能力のオーバーした工程をリストラすれば、全員が常に100%忙しい状態になり、一見効率的に見えます。しかし連載「利益創出! TOCの基本を学ぶ」の第4回で説明したDBRの考え方を思い出してください。図1で改善前はB工程だけがボトルネックで、生産の遅れはB工程からだけしか発生しませんでした。しかしリストラという「改悪」で能力がバランスされた結果、すべての工程がボトルネック工程になってしまいました。全員がボトルネックということは、非ボトルネック工程が持っていた生産の遅れを吸収する「保護能力」はどこにもありませんから、ひとたびトラブル(マーフィー)が現れれば、すべてのものが混乱のるつぼに叩き込まれることになります。

 トヨタ生産方式を開発した故大野耐一氏も、その著書の中でムダを徹底的に排除する際の前提として、

  ムダを工程や作業だけでとらえず、工場全体でとらえること

と指摘しています。もちろん、すべてムダ取りが悪いわけではありませんが、工場の中には、すぐには見ることのできないムダが数多く隠されており、目に見えるムダだけをむやみに削減していると、思わぬワナにはまることもあるので注意が必要です。

 ムダを見極め、正しい状況判断を行うためには、

  • 手不足状態:物理制約
  • 手余り状態:市場制約

を正しく見極め、スループット(T)、在庫・投資(I)、業務費用(OE)の増減で判断しなくてはならないのです。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

 次回はさらに大きなムダ、生産管理と営業に潜むムダを見てゆきましょう。

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