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“世界の工場”中国なんて、ちっとも怖くない?ものづくり白書2008を読み解く(前)(2/2 ページ)

2002年から始まった緩やかな景気拡大は、米国サブプライム住宅ローン問題や原油価格高騰によって息切れを起こしている。こうした中、日本のモノづくり企業はどこへ向かえばよいのか。経済産業省から発表された「2008年版ものづくり白書」を基に考察してみる。

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モノづくりの手の内は絶対に教えない

 白書では「薄型テレビのサプライチェーン」と題したコラムを掲載し、前ページで見てきたモノづくり企業とアジアとの関係を象徴させている。それによると、液晶テレビやプラズマテレビの生産では、製品価格の50〜60%を占めるパネル部分は国内一極生産とし、それを中国やASEANに輸出して現地で組み立て生産を行っている。筐体(きょうたい)などの汎用部品は現地調達するという。その理由について、

  • 薄型テレビのパネル生産は設備集約的で一極生産のメリットが大きい
  • モデルチェンジのサイクルが速く、エンジニアと生産現場の近接性が求められる
  • 国内に優秀なサプライヤがいて、現地法人が日本から輸入するより国内調達する方が割安

としている。また、組み立て工程をアジアに置くメリットについては、

  • 完成品を輸出するより、消費地で組み立てた方が輸送コストや関税が有利になる
  • 価格下落が激しいため、国内に製品在庫を抱えたくない

といった理由を挙げている。

 こういった日本企業の姿勢は、「我が国製造業の機能分業の方向性」と題された図4にも端的に示されている。製造拠点の海外展開を行っている企業に今後の内外拠点の活用方針を聞いたところ、「基礎研究」「応用研究」は「日本国内に集約」との回答がそれぞれ79.5%、69.3%と高い割合であった。世界市場向け新製品の設計開発は、「日本国内に集約」が67.6%、「国内が主、一部を海外へ展開する」を含めると83.5%だった。現地市場向けの新製品の設計開発でも、同51.4%、同72.7%となり、研究開発および新製品の設計開発といった上流工程は、国内に集約させる傾向が明らかである。

図4 我が国製造業の機能分業の方向性<br>(出典:2008年版ものづくり白書 図121-21)

 研究開発に対する投資額で見ても、海外の割合は2004年度に3.9%とピークを迎えた後、2006年度には3.2%へ後退している。白書では、「現地市場向けの設計開発は、海外拠点に機能を移していくとする企業も一部に見られる」という表現を盛り込んでいるが、モノづくりの上流工程を海外移転する意欲がまだまだ弱いことは明白だ。

 かつての日本経済は、原材料を輸入し、モノづくり企業が付加価値を付け、それを工業製品として輸出するという産業モデルだったが、現在は高度なモノづくり技術を必要とする中核部品を国内生産し、人件費の安いアジアの生産拠点へ輸出して現地生産、現地販売を行うモデルに変化していることが分かる。これを裏付けるデータとして、製造業の現地法人の地域別売上高の推移を示した図5では、アジア、北米、ヨーロッパの各地域とも総じて売り上げを伸ばしており、2004年度以降は北米を抜いてアジアの売り上げが42.5兆円と他地域を圧倒している。

図5 我が国の現地法人(製造業)の地域別売上高の推移
図5 我が国の現地法人(製造業)の地域別売上高の推移
(出典:2008年版ものづくり白書 図121-10)

 そしてアジア市場で売上高を急伸させている現地法人の製品販売先を見ると(図6)、2001年度を境にして、日本向け輸出(いわゆる逆輸入品)が減少するのに対して、現地販売比率はおおむね拡大しており、2006年度には51.9%となっている。

図6 我が国のアジア地域現地法人(製造業)の販売先(割合)
図6 我が国のアジア地域現地法人(製造業)の販売先(割合)
(出典:2008年版ものづくり白書 図121-14)

 2002年から始まった景気拡大は、アジアに展開した製造業の現地法人に向けて、国内で生産した中間財を輸出し、それを最終製品として組み立てアジア市場で売りさばいた結果もたらされたといっていいだろう。経済のグローバル化がいわれ、日本製品は海外製品との過酷な価格競争にさらされているといわれている。しかし、日本の大手製造業が空前の好決算にわいている事実からすると、付加価値の高い中間財や素材をしっかりと国内に抱え込むことで利益を確保してきたといえるだろう。海外へ出ていったのは、価格競争にさらされやすい汎用製品や労働集約型の生産工程だった。

 さらに白書は、海外展開した企業の国内回帰も見られると指摘している。経済産業省の行った調査によると、過去5年間でアジア地域から製造拠点を引き上げた企業のうち14.9%が国内拠点に移転しているが、その理由は図7である。最も多かった回答は「現地の生産コスト・人件費の上昇」で28.1%、次いで「現地における知的財産・ノウハウ管理上の問題の増大」で21.9%、この2つが回答の半数を占めている。

図7 国内に機能を移転した理由
図7 国内に機能を移転した理由
(出典:2008年版ものづくり白書 図121-20)

 「世界の工場」と呼ばれ、急激な経済発展を遂げている中国では、最近インフレの進行に伴って賃金の上昇圧力が高まっている。中国都市部の賃金は2008年上期、前年同期比21.1%上昇した。消費者物価は2008年7月で前年同月比6.3%の上昇、特に食品価格は同14.4%と大幅な上昇を示し、たまりかねた労働者の賃上げストライキも起こっているという。今後もさらに中国労働者の賃金が上昇すれば、生産拠点の国内回帰の流れはさらに加速するかもしれない。

 2つ目の理由であるノウハウ流出への懸念であるが、もともと基礎研究や新製品開発といった上流工程は国内拠点に集約する傾向の強い日本の製造業である。それでも技術流出に神経をとがらせているのは、徹底して固有技術を国内にとどめようという強い意思が感じられる。この国内重視の製品開発戦略は、これまで順調に業績を支えてきたかに見えるが、それが今後も盤石であるといえるのだろうか。

 後編では、日本のモノづくり企業の経営基盤を脅かす人材問題について分析する。

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