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オムロンに学べ! モノづくりのデータ管理術モノづくり最前線レポート(1) 〜モノづくり経営サミット2007 前編〜(1/2 ページ)

「日経ものづくり大賞 2006年度 海外部門」を受賞したオムロンの事例から、データ基盤を整備する重要性を考察する

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本連載記事では日本の製造業が抱える問題についてさまざまな提言を行っている個人、企業、団体を取材し、モノづくりに関する最新の議論を多角的に紹介していく。(編集部)

 「モノづくり最前線レポート」の第1回は、本フォーラムに「PLMは“勝ち組”製造業になる切り札か」を連載するコンサルティング企業「ネクステック」が2007年10月18〜19日に開催した「モノづくり経営サミット2007」から、主要な講演を2つ取り上げて紹介する。まず、ネクステック 代表取締役CEO 山田太郎氏の「日本の製造業が変わる! これからの設計製造改革のあるべき姿とは?」をお届けしよう。

ERPでプロセス改善なんてやっても、もうかるわけがない

 製造業に特化したコンサルティング企業を立ち上げた山田氏は、起業する以前に数多く担当した製造業のERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)によるプロセス改善の経験を踏まえ、モノが売れにくくなっている現在の経営環境では、業務プロセスをいくら改善しても勝ち組にはなれない、とゲキを飛ばした。

 1990年代以降のデフレ経済で、多くの企業はIT化の名の下にERPパッケージソフトを導入し、大変な思いをして業務プロセスの改善に取り組んできた。それが何を生み出したかというと、人間が行っていた業務をITに置き換えることによるリストラ効果、つまりコスト削減だけで、製造業が求める“売れる・もうかるモノづくり”に貢献していないという。プロセス改善はやって当たり前のこと。それ自体は経営戦略にはなり得ないというのだ。

 それではQCD(Quality、Cost、Delivery:品質、価格、納期)をコントロールして利益を生み出すモノを作っていくには何が必要となるのだろうか。その答えを見つけるには、まず顧客は何を買っているのか、もう一度見直す必要がある。

製品ライフサイクルが短くなるのは、チャンスでもある

 製造業に携わる人間なら、自分たちはモノを作って売っていると考えるのが普通だろう。この固定観念を壊すために、山田氏はトラックの例え話を持ち出した。「トラックを買って、飾っておく人はいない。何かを載せてどこかに運んで商売をしているはずだ。だからトラックに求められるのは、どれだけ荷物を積載できるか、スピードは出るのか、燃費は良いのか、そういった機能やスペックだ。つまり、トラックというモノを通して“何トンの荷物を運べる”といったスペックを顧客に売っていると考えるべきだ」(山田氏)。モノのスペックはそれを構成している部品によって生み出されるのだから、部品の情報(BOM)こそが製造業の資産であり、スペックを管理していくことが企業戦略だというのが山田氏の主張である。

 しかし、製品の機能やスペックが重要であるという考え方は特に新しくはない。日本のメーカーは他社にない機能を盛り込んだ製品を開発し、製造プロセスの改善に努めて高品質なモノを作ってきた。私たちの周囲を見回せば、機能やスペックに秀でた日本製品はいくらでもある。最近の報道を見ても、日本のメーカー各社は戦後最高の売り上げを出しているではないか。何か問題があるのだろうか。

 一見バラ色に見える日本の製造業だが、売上高経常利益率は平均で5.7%しかない(2007年版ものづくり白書)。米国の利益率は十数%、アジア各国の10%前後と比べても、日本の製造業は圧倒的にもうかっていないのが現状だと山田氏は指摘する。その原因は、製品のライフサイクルが非常に短くなっていることにある。携帯電話の新製品の寿命はおよそ3カ月、自動車でも新車が売れるのは1年程度と、新製品が売れる期間は短くなる一方だ。

 製品のライフサイクルが短いということは、顧客の買い替え需要が旺盛なわけだから、モノは非常によく売れる。これが戦後最高の売上高を示す理由だ。一方で、新製品を投入するための開発コストが増大するから、いくら売れても利益率は低迷してしまう。これが現在、日本の製造業が置かれている状況なのである。しかし山田氏は、製品のライフサイクル短縮はビジネスチャンスであると主張する。

製品の戦略的自由度を高めるには何が必要か

 モノは売れるがもうからない。この経営環境を逆手に取ってビジネスチャンスに変えるには、スペック管理が重要だという。製品のライフサイクルが短くなれば、ヒット商品を作ってもすぐに売れなくなってしまう。だから次々と新製品を開発して顧客ニーズに追随しなければならないが、毎回ゼロから製品設計をしていたらとても追い付かない。過去に作った製品のスペックをうまく再利用して、短いリードタイムで新商品を生み出す力があれば、逆に市場をリードしていけるのだ。

 モノづくりの過程は、「顧客ニーズ」→「商品仕様」→「製品構成」→「生産工程」→「生産」→「製品」→「商品の効用」→「顧客満足」と流れていくが(図1)、この中でモノが登場するのは実は「生産」と「製品」だけで、残りはすべてスペック(情報)が流れている。製造業は情報産業といい換えてもいい、と山田氏はいう。そしてよく知られていることだが、製品のライフサイクルコスト(つまり収益率)は生産に入る前の設計フェイズで80〜90%決まってしまう。

図1 製造業の情報サイクル
図1 製造業の情報サイクル(情報・実体の連鎖と変換過程)(出典:ネクステック山田氏の講演資料を転載)

 製品のQCDをコントロールするなら、モノではなくバーチャルな情報、つまりスペックの管理能力を高める必要がある。これを可能にするには、部品のマスター情報を整備し(情物の一致)、データベース化することにあるというのがネクステックの主張だ。山田氏によれば、多くのメーカーで部品のマスター情報をきちっと管理できていないという。部品のマスター情報は、モノづくり企業にとって自社のノウハウが詰まった資産である。この情報を設計、生産、購買、販売といった企業活動の全般に活用していくことが、製品戦略の自由度を高めることにつながり、ひいては“売れる・もうかるモノ作り”につながっていくというわけだ。

 「モノづくり経営サミット2007」では2日間で15もの講演が行われたが、その基底を流れるのは「モノづくり=情報の管理」という考え方であるようだ。次ページでは部品の情報管理を極めることで、短期間に生産拠点の海外移転に成功したオムロンの事例を紹介しよう。

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