零戦の要求仕様の優先順位を考えようじゃねぇかい!:甚さんの設計分析大特訓(3)(1/3 ページ)
無理難題てんこ盛りな零戦を設計するため、三菱重工 堀越二郎がまず一番に注目したのは要求仕様の優先順位だった。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
今回も、理解度チェック
皆さん、第2回(設計審査編)はいかがでしたか? 設計の奥行きの深さを少しは理解できたでしょうか? さて前回同様、次へ進むに当たり下記にチェックポイントを設けました。筆者としてぜひ理解していただきたい項目です。3項目以上理解していた方は先へ進みましょう。そうでない方は、第1回、第2回を読み返してみてください。
設計審査 理解度チェック
- 「3次元CADを忘れろ!」の意味が理解できた
- 「設計品質」という単語を理解できた
- 設計審査が技術説明会となっていることを理解できた
- 設計思想とは何かを少しは理解できた
- 灯油ポンプを入手済みだ。または、時季外れなので入手予定だ
なんでもあり! って便利だけど
さて、「設計思想を理解した」といってもそれだけでは不十分で、実際の設計に生かすことはできません。設計思想をいくつか打ち出し、それを設計品質に設定することで有意義なものになります。
第2回でも説明しましたが、設計とは設計品質の1つ1つを具現化する行為です。それらをすべて同位で設計してしまうと、「なんでもあり!」の特徴なき商品や過剰品質の商品が出来上がってしまいます。
日本企業は世界でも独特の文化を持っています。それは、設計思想がないために、または、優先順位がないために「なんでもあり!」のオールインワン商品がはんらんしていることです。
例えば、
- ラジカセ(AMラジオ+FMラジオ+カセットテープレコーダ+MO+CD)
- 多機能事務機(コピー+FAX+固定電話+スキャナー+プリンタ)
- リンスインシャンプー(リンス+シャンプー)
- 洗濯機(洗濯+脱水+乾燥+イオン洗浄+除湿+エアコン……ビックリ!)
そして最も代表的なのは下記の商品ですが、日本独特の商品ともいえます。
5.携帯電話(電話+メール+カメラ+TV+ボイスレコーダ+MP3+辞書など)
オールインワンの多機能商品はとても便利だと思っている方々が多いと思います。確かにそうで、1と2は世界中で使われています。しかし一般的に商品寿命(*1)が短いもので、故障も頻発します。*1 市場における商品価値(商品の人気)が続く期間を「商品寿命」という。その期間が短く、あっという間に市場から消え去る商品を「短命商品」という。
また多機能商品は、機能1つ1つの魅力が薄れるため、消費者からすぐに飽きられます。商品寿命は長くて3年、携帯電話などは1年も持たないでしょう。
故障頻発とは
- そもそも多機能にすれば、その機能の数だけ、機構部品や回路部品が増加し、信頼性が低下する。つまり、故障が頻発する。
- 多機能商品は、合体だけのアイデアであり特許性が低く、誰にでも作ることができるため、急激に低価格競争に突入する。すると、どうしても低信頼性や修理不能な構造体に設計変更する場合が多い。
従って、消費者は一機能が故障すると修理せず、または修理できないために次から次へと廃棄しています。地球環境の保護を訴える企業が、一方では地球環境を破壊……そうはいいたくはありませんが、消費者側であるわれわれも、もっと賢くなっていきたいものですよね。
そこで、「設計思想とその優先順位」という言葉が設計工学の中で存在するのです。簡単にいえば優先順位の設定のことです。
設計思想とその優先順位? どこかで聞いたような気がするけど……えっと。
確かに聞いているはずだぞ。第1回の「図1 正統派の設計フローと手抜きの設計フロー」を見てみなって!
忘れてしまった人は、第1回の「正統派の設計フローと手抜きの設計フロー」を確認してください。
オメェなぁ、その昔、第2次世界大戦中に名機と呼ばれた零戦と呼ばれる戦闘機が大活躍したんだ。その戦果よりも美しいフォルムをたたえるファンがいまも大勢いるんだ(図1)。
ゼロセンですか。でもそれって戦争の道具……兵器でしょう! 教育の現場では注意が必要ですよね。
良くんのいうとおりです。この場で兵器を登場させることはナンセンスです。しかしながら、今回のテーマである「設計思想とその優先順位」の事例として、平和で温厚な題材を探しましたが、どうしても最適なものが見当たらなかったのです。今回だけ、兵器ではなくあくまで航空機としての「零式戦闘機」、通称「零戦」を設計事例として紹介することをどうかお許し願えればと思います。
そうなんだ、ちょいとゆるしちくり。それから、零戦は『ゼロセン』と発音するとファンに叱られるぞ〜? 『レイセン』と呼んでくれよ。ともあれ、その設計者は三菱重工の堀越二郎、当時の主任設計者だ。
実は知っています。東京大学卒で、当時34歳か。僕の兄とほほ同じ年齢なのに、名機・零戦の主任設計者だったのですね。
そうだ。まさしく設計者だ。3次元モデラーのオメェに、堀越さんの爪の垢でも飲ませてぇもんよ。
さてここで、現代では商品企画と呼ばれますが、当時の「十二試艦上戦闘機(零戦)」の計画要求書を見てみましょう。
※参考文献:『零戦 その誕生と栄光の記録』堀越二郎・著(カッパブックス)
※以下の企画書は、筆者が参考文献を基にして本記事用にアレンジしたものです。実際のものとは異なります。
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