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灯油ポンプの設計書を書こうじゃねぇかい!甚さんの設計分析大特訓(1)(1/3 ページ)

最近、設計思想がない設計者が多過ぎだ。それはリコール問題発生の原因にすらなる。今回は甚さんと一緒に設計書の基本を確認しよう

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 実は、日本の設計者の多くが設計思想を持っていません。企業にその単語すらありません。本連載では、甚さんと良君と一緒に製品の設計思想を分析していきます。解説を通じて、「設計思想って面白い!」と気付いてくれるなら、この上ありません。

当連載の登場人物

甚

根川 甚八(ねがわ じんぱち)

根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん


良

国木田良太(くにきだ りょうた)

ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君


*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


設計書が、ない

 根川 甚八さん(通称 甚さん)は、東京は大田区にある板金プレス工場の社長です。彼は、設計から製造、営業、経理までを1人でこなす敏腕です。町工場といいましても、技術と品質は確かですから、その顧客も大手企業ばかりです。

 ある日、ADO製作所の国木田良太君(通称 良君)が、甚さんの元へやってきました。自分の設計している部品の量産試作について相談をするためです。良君は有名大の工学部卒で、入社5年目。設計チームの中では、まだ一番下っ端です。良君の部署には新卒がなかなか入ってこないのです。

 事務所で話をしているうちに、甚さんの顔はだんだん険しくなってきて、とうとう良君にゲンコツが飛んでしまいました! おやおや……。

良

ア、アイタタタッ! 父親にもぶたれたことないのにっ!


甚

オメェ、3次元CADが誰よりも得意だって自慢したけどよぉ、ナンダイソリャーッ! 何して給料もらっているかいってみぃ、あ? オレサマが何いっているか、分かるか? 設計者の『アウトット』だ。


良

『アウトット』ですかね。あ、図面? 僕はもっぱら3次元CADでモデリングしていて、図面は派遣トレーサーのエリカちゃんに描かせています。


甚

自分で図面を描いてねぇだと?  図面を描かないじゃなくて、描けねぇんだろオメェは。もしかしてよ、描けねぇってことは、まさかオメェ……、読・め・ね・ぇ・ってぇことか?


良

そんな訳ないでしょう。僕は富士山麓大の工学部卒ですよ? 3次元CADで、“図面の手前”、つまり構想設計だけをするんです。例えば、パソコンの筐体(ケース)なら『中に何を内蔵するのか?』3次元CADの画面上で造形していくんです。あ、モデリングっていうんですけどね(プププ……、こんな町工場には3次元CADなんてないと思うけどさ?)。いまどき、どこの設計現場でもそうじゃないですか。


甚

べらんめぇ! オレサマをおちょくってんじゃねぇだろうな? どこの国にモデリングしかアウトプットがねぇ設計者がいるってぇんだよ。もしかして、アウトプットは設計ミスのトラブルじゃねぇだろうな?


良

そっ、そんな訳ないでしょう。僕は完ぺき主義ですから。でも……。


甚

“でも”がどうした? 気に入らねえっ! そんじゃ、“図面の手前”っていうモデリングとやら……オメェは『造形』といいやがったが、正しくは『設計』だろうが! いまオメェが設計しているっていう、ノートパソコンの「設計書」を見シてみろ!


良

せっ、設計書って何ですか?


 思わず良君の口から突いて出てしまった疑問なのですが……それはつまり、「出すのは図面とトラブルだけ」ということになりましょうか 。

 「設計書」とは、設計者の最重要アウトプットのはずなのに、多くの企業で設計者のアウトプットが図面とトラブル(設計変更書)しかないのです。要は、“設計書を作成しない設計集団”というわけです。

 以下の設計「5N(5“ない”)」は、企業規模の大小とは関係なく発生しています。

  1. 競合機分析やらない
  2. 強度、安全率、累積公差計算しない
  3. 特許出さない
  4. コスト見積もりしない
  5. 設計審査やらない

 長年この状況を許してきたために、現在は、「やらない」が「できない」にまでなってしまいました。これは昔からあった現象ですが、3次元CADが急激に導入された「3次元CAD元年」と呼ばれる2001年ごろから急加速したのです。このころ設計された家電や自動車に“設計品質が原因のトラブル”が集中しています。

 3次元表示するための設計者によるインプット、いわゆる「モデリング」と称する造形作業の工数が大幅に増加しました。設計者は「設計」よりも「造形」に時間を取られるのは当然のこととなっています。

 3次元CADの弊害、とまではいいませんが、設計者は1日中、CADの前に座って一歩も動きません。いきなり3次元CADに着手なのです。CAD画面の中では、製造不可能、組み立て不可能な部品や商品が次々と設計されています。いや、設計ではありません。造形です。そして、設計者ではない“3次元モデラー”の登場です。

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