灯油ポンプの設計審査をしようじゃねぇかい!:甚さんの設計分析大特訓(2)(1/3 ページ)
世の中には、設計審査を行わない企業がある。技術説明会では、出来るわけないスケジュールをでっち上げる。これは、企業として致命傷だ。
皆さん、GWはいかがお過ごしでしたか? 筆者は、仕事の合間を利用して伊勢志摩の真珠、その加工工場を見学してきました。金属や樹脂ではない生物の「造形」を目の当たりにして「設計」では超えられない神の領域を垣間見て感動しました。
さて、今回も造形と設計の違いを踏まえ、設計思想と設計審査について解説していきます。特に、設計思想にご注目ください。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
その前に、理解度をチェック
第2回に進むに当たり、下記にチェックポイントを設けました。ぜひ理解していただきたい項目です。
3項目以上理解していた方は先へ進みましょう。そうでない方は、第1回を読み返してみましょう。
設計思想 理解度チェック
- 造形と設計の違いが少しは理解できた
- 設計者の最重要アウトプットは設計書かもしれない
- 正統派の設計フロー(11ステップ)に興味がある
- 設計の上位に商品企画があることを再認識した
- 技術者の「6W2H」を書いてみる気になった
ンモー! 設計思想が何なんだか、早く教えてよ
前回、良君は「設計思想って何か教えてください」と甚さんにリクエストしましたよね? あれからですが、良君は甚さんの命令で、工場の近所の100円ショップまで行き、灯油ポンプを買ってきました。
そして甚さんは、良君が買ってきた灯油ポンプを利用して、お得意の設計分析を始めます。彼は果たして、良君に「設計思想が何たるものか?」を理解させることができるのでしょうか?
オメェにとっての設計のコツはだなぁ、まず『3次元CADを忘れろ!』ってこった。いきなり“絵”を描くと何度も振り出しに戻っちまうんだよ。それと、オメェの“絵”には設計思想が感じられねぇんだよなぁ(図1)。
うーん……。
入社以来5年間、『設計思想』という単語は一度も聞いたことがありません。甚さん、さあ教えてください!」
日本の企業も落ちたもんよぉ。設計思想もねぇ企業が『モノ作り、モノ作り』と騒いでいやがる。まったく、“罪作り”な話じゃねぇかい。心がこもっていねぇから、事故とリコールばかり起こすってぇの。
僕の灯油ポンプのどこが気に入らないのですか? 格好がいいし、ノズルも伸縮自在です。そりゃあ、ちょっと高いかもしれないけど。
オメェよ、灯油ポンプの『吸い上げ』しか考えてねぇだろう? 設計審査したら、完ぺきに却下ってぇとこだな!
ガビーン!
簡単な設計審査でも、いっちょやってみっか? その前に、まず『設計品質』ってぇ単語を覚えちまいなぁ!(図2)
『設計品質』って、灯油ポンプに要求されているQCDや各種の機能のことですか? 『機能』は、別名『パフォーマンス』ともいいますよね?
さすが一流大卒、理解だけは早えよ。“設計”ってぇのはな、設計品質、この1つ1つを具現化していく仕事よ。オメェは、まずここを理解するのだ!
ガッテン承知! 甚さん。設計品質の1つ1つを具現化していくのが“設計”なんですね。つまり、思い付きの“造形”とは異なるわけか……これが設計なんですね?
はぁ? そんじゃ、オメェのいままでは、いったい何だったんだよ!? おい、はっきりいってみやがれ! いえなきゃエリカちゃんと交代だ!」
えっ違うの!? スイマセン、スイマセン! 校長……じゃなかった、甚さん。適当に格好良く“造形”して、エリカちゃんに図面を描いてもらうのが、僕の仕事でした……ああ、そうでしたともっ! だから、設計思想のことを教えてください、お願いします、このとおり〜っ!
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