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制約条件に着目した業績改善手法、TOCとは?利益創出! TOCの基本を学ぶ(1)(3/3 ページ)

モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。

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全体の利益はスループットの最大化

 TOCを工場改善手法から脱却させた大きなポイントの1つは、原価計算に基づく従来の財務会計を否定している点が挙げられます。

 従来の原価計算方式では、直接・間接の人件費や設備の減価償却費などの固定費を個々の製品に割り振って、製品ごとの原価(単位原価または個別原価という)を計算し、製品の販売価格からそれを差し引いて利益を弾き出します。しかし、そうやって計算された会計上の利益と実際に生み出されたキャッシュとは必ずしも一致しないのです。単位原価に着目する原価計算制度は、実際の需要がなくても増産すれば原価が下がって会計上の利益が増えるという本質的な問題を抱えているのです。

 需要に合わせて減産するよりも、増産した方が利益が出るような会計システムでは、真の実態をつかむ経営はできませんし、このような利益を集めてきてもしょせんは真の会社の実力にはなり得ないのです。さらに、この個別原価の概念で部門別の評価をすれば、各部門は競って増産に走ります。この個別原価計算のパラダイムではアクセルの効き目は大変良いが、ブレーキはあってなきがごとしの意思決定が行われてしまうことになるのです。

 この本質的な問題に対してTOCが唱えているのは、見かけ上の単位原価を引き下げることを目的とせず、企業全体の「スループット」を最大にすべきということなのです。スループットとは製品の売上高から資材費を引いたものであり、製品を1つ多く販売すればその製品のスループット分だけ全体のキャッシュが増加します。企業の最終利益は全製品のスループット総額から全体の業務費用を引いて残った額であり、スループット総額の最大化を目指せば自ずと企業が生むキャッシュも最大にできるのです。

 このことは「企業の目標はキャッシュを生み出すこと」という大原則に立ち返った理論なのです。そして、キャッシュを生み出すための取り組みとして、

  1. スループット(売り上げから資材費など、真の変動費を差し引いたもの)の増大
  2. 在庫(資材・原材料、仕掛かり品、製品など)の低減
  3. 業務費用(資材費以外の総経費、直接人件費も含む)の低減

の3つを挙げ、この順に実行すべきとしているのです。

 スループットの増大は、投資や経費の削減と違って理論的限界がありませんし、売り上げを増やすことは企業の活力を増すことにもつながるのです。また在庫を低減することは、企業内に滞留するキャッシュを減らしROI(Return On Investment:投資収益率)やROA(Return On Assets:総資産利益率)を向上させ、資金効率を上げることになります。

 スループットの総額を増やすことを目標に掲げることによって、従来、経費低減に注力しがちだった企業に、スピードの重要性を認識させることができます。リードタイムを短縮すれば、投資されたキャッシュの回転が改善されスループット総額が増え、この結果サプライチェーン内に棚卸しとして滞留するキャッシュは減り、経営効率は飛躍的に高まります(図2)。

図2
図2 スループット最大化のフレームワーク
1)スループットを向上させる
2)在庫・資材費を低減する
3)業務費用を低減する

TOCと日本型マネジメント

 TOCの成立には日本の偉大な企業人が大きな影響を与えています。ゴールドラット博士は1983年、OPTの考え方が正しいかどうか知るために、トヨタ生産方式の始祖である大野耐一氏(トヨタ自動車 元副社長)に直接教えを請いに行ったそうです。長時間のディスカッションの後、大野氏は、

ゴールドラットさん、私たちは継続的改善の重要性や原価計算の弊害など、どのように工場の生産性を向上するかということについて有意義な時間を持ちました。しかし、私たちはある意味で間違った議論をしたのではないかと思います。つまり、工場や生産現場の生産性をいかに改善し続けたところで、いつかは限界が来るということです。私たちが本当になすべきことは、売り上げを伸ばし続けること、すなわち業績を上げ続ける仕組みをどうやって企業の中にビルトインするかを考えることではないでしょうか

といわれたそうです。博士はその言葉を「大きな宿題」ととらえ、TOCを生産現場のコントロール法から、企業の業績を革新する統合手法へと進化させたのです。

 それでは、次回からTOCで生産現場をコントロールする方法を具体的に解説していきましょう。

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