スループット計算書を作れば何がムダか一目瞭然:会社のムダを根こそぎ撲滅! TOCスループット(3)(1/3 ページ)
TOCでは「原価計算は生産性の最大の敵である」と主張する。現行の会計制度に存在する矛盾を明らかにし、企業の継続的な利益創出を支援するTOCスループットの基本を紹介しよう。
前回「工場で大人気の“ムダ取り”は本当に効果ある?」では、手余り(市場制約)と手不足(物理制約)それぞれの状況判断を間違えると、大きなムダが発生するという話をしました。さて今回は本連載の3回目として、工場のムダよりもはるかに大きなムダを発生させている「営業」と「生産管理」に潜むムダについて考えていきます。ムダを考えるに当たって、会社の収益との結び付きを、スループット計算を実際に使いながら見ていきましょう。
スループット計算書の作り方
スループット計算書というと何か複雑なイメージがありますが、作り方はとても簡単です。必要なデータは、以下の4つです。
売上関係(Sales) トータルの売上高と平均単価、数量のデータが必要です。全体を見るためのデータなので、売上高を総出荷数量で割って平均単価を導き出しても問題ありません。
資材費関係(Inventory) 出荷製品一単位当たりの平均資材単価と、総出荷数量が必要です。資材費も売上高と同じように、資材費の合計を出荷数量で割って、単位当たりの平均資材費を算出してもOKです。
外注費(Inventory) 1個当たりいくらで工賃を払う外注費も1つの資材費です。製品1単位当たりの平均外注単価と、外注へ出した数量が必要です。これも同じように簡便法として外注への総支出を外注数量で割って算出します。
業務費用 業務費用は資材費と外注費以外のすべての経費になります。ここではこれらの固定費を低減するネタを見つけるのが目的ではありませんから、電気料も光熱費も基本的にすべて固定費と考えます。
スループット計算書は非常にシンプルです。この計算書の本来の目的は、経理が行う原価計算のように会社の活動を記録し、いくらもうかったかを見るものではありません。確かに計算するのは会社の現在の姿であり、キャッシュベースの利益も計算できます。しかし、この計算書の本当の目的は、会社のムダを見つけ実際のキャッシュを生み出すスピードを高めること。いい換えれば「何を変えれば会社の利益がもっと増えるのか」を見つける道具なのです。
ここで、架空の会社、A社を例としてスループット利益計算書を見ていきましょう。A社は平均単価1万円の製品を1万個販売し、トータルの売上高は1億円。1個当たりの資材費は6000円(60%)でスループット率が40%、固定費が3500万円(35%)で、利益が5%という収益構造を持っています(表1)。
ここから、さまざまなムダが会社の実際の収益にどう影響するか見ていきましょう。
売り上げを上げようとするムダ
営業が作り出すムダの中で最大のムダが「売り上げを上げようとするムダ」かもしれません。もちろんすべての売り上げが悪いのではなく、売り上げを無理やり上げようとする行為が思わぬところで大きなムダを呼んでいるのです。
売り上げを上げる手っ取り早い手段として、営業担当者がよく取る手段は「押し込み」や「泣き落とし」です。押し込んだり、泣き落としたりするときには、値引き、おまけ、リベートの積み増しなど、あらゆる手段を使って目標を達成しようとします。
押し込み、泣き落とし、値引き、おまけ、リベートの悪用などは営業活動の「ひずみ」です。経営者であろうと、監督者や平社員であろうと、すべての人たちは、使われている評価尺度(注1)に影響されます。この評価尺度にのっとった行動によって、営業担当者は月末に向かって大幅な値引きを行い、工場の能力を無視した受注活動を行います。実はこれ、「ホッケー・スティック・シンドローム(月末症候群)」という名前が付いている立派な「会社の病気」の1つです。
注1:評価尺度 TOCでは、問題はPMBによって引き起こされると考えます。P:Policy(方針・風土・しきたりなど)が、M:Measurement(評価、評判など)を決め、その結果、B:Behavior(行動、発言)が決まるのです。法則的にあらゆる組織ではPが存在し、それに従う形でMが形作られ、Bを支配すると考えます。Pは組織の中に明示的に示されている場合も、しきたりや風土といったように暗黙知の中にある場合がありますが、いずれの場合でもPMBは一連のセットで存在するので、好ましくない事実(症状:B)が確認できれば、因果関係的にPを探し出すことができると考えるのです。
確かにこれで短期的な売り上げは増加しますが、値引きをしたからといって製品の機能を引き下げるわけではありませんから、材料費(I)は減りませんし、業務費用(OE)も変わりません。さらに悪いことに、そうやって月末に押し込み販売された製品は、顧客の倉庫を満杯にしてしまいます。そうすると顧客は倉庫にたまった製品がさばけるまで、しばらく注文を手控えます。
しかし、工場の生産能力は基本的に日々一定ですから、この結果、月初と月末の負荷は大きく変動します。月の初めは仕事がなく手待ちが発生し、逆に月末には何とか期限内に完了しようと残業、休日出勤を繰り返します。それでも間に合わない場合には本来必要のない外注工場に大量の注文を流し、スループットを流出させているのです(図1)。
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