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在庫がたまり納期が遅れる理由〜「2つの勘違い」利益創出! TOCの基本を学ぶ(2)(1/3 ページ)

モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。

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 前回の「制約条件に着目した業績改善手法、TOCとは?」でも指摘したとおり、在庫がたまるのも、納期が遅れるのも、もうからないのも皆それぞれに理由があり、難しい数式など使うことなくちゃんと説明できます。これらの損失をもたらしているのは、工場の生産活動をめぐる「2つの勘違い」と、それを取り巻いている人間が読む「3つのサバ」が原因となっています。

 これから説明する勘違いやサバ読みを生み出すメカニズムは、説明されてみると至って「当たり前」のことにすぎないかもしれません。しかし、皆さんの周りにはこの当たり前(常識)から遠ざかってしまう、数多くの思い込みや、間違った前提条件があることも事実なのです。

 さてそれでは今回と次回の2回を使って「2つの勘違い」と「3つのサバ」を順番に確認していきましょう。今回はまず、「2つの勘違い」を説明します。

⇒本連載の目次はこちら

仕事とは遅れるものである

 工場で一番難しいのは、現実の作業をどう行うか、これをどう順番付けるか、ということです。通常この業務は「差し立て」と呼ばれ、この仕方が悪いと、自分の工程だけでなく、他工程の生産性や仕掛かり在庫に非常に大きなマイナスの影響を与えてしまうため、豊富な経験を持った作業長や班長が行うのが普通です。差し立てという作業が難しい理由は、工場の生産業務が「従属関係に縛られた」巨大なネットワーク型の業務であることに起因します。このネットワークは生産工程の順序性のみならず、原材料調達や設計業務など企業のさまざまな業務とつながっており、さらに差し立て作業を難しくしています。

 工場に限らず、先行作業と後続作業に順序の依存性がある場合、遅れだけが伝播して、早く終わってもほとんど伝播しないという厄介な特性があります。この現象はネットワークが直線的な場合でも、複数の事象が合流する並列の場合でも同様に起こります。

 簡単な例を挙げて考えてみましょう。複数工程が合流する場合、例えばA、B、Cと3つの工程が並行し、D工程で最終組立作業が行われる場合、A工程は予定より3時間早く終わり、Bは2時間遅くなり、Cは予定どおりだったとすると、A、B、Cの全部が終わらないと着手できないD工程は、A工程が早く終了したことは何ら関係なく、B工程で生じた2時間の遅れだけが伝わります(図1の左)。

 それでは、いくつかの作業が直線的につながっている場合はどうでしょうか。工程が予定より時間がかかったとすれば、当然遅れは次の工程に伝播します。問題は、予定より早く終了した場合です。早く終了すれば、次の工程に早く渡すことはできます。ポイントは“次の工程がすぐに着手できるか”なのです。

 例えばA−D工程がそれぞれギリギリの負荷で作業をしていたとしましょう。ギリギリということは、遅れも進みそれぞれ50%の確率、五分五分ということになります。最初のA−B工程を考えてみると、A工程が予定より早く完了しB工程に渡せる確率は50%ですが、B工程がその仕事に早く取り掛かれる確率(現在の仕事が早く終わっている確率)は50%です。こう考えると、B工程に渡した時点で予定より進んでいる可能性は確率的に考えれば50%×50%=25%ということになります。さらにC工程までいくと、進みが伝播する確率は12.5%(25%×50%)まで低下し、D工程まで進ちょくするとさらに6.25%(12.5%×50%)まで低下します(図1の右)。

図1 仕事の遅れだけが伝播する厄介な特性
図1 仕事の遅れだけが伝播する厄介な特性

 このように順序依存性のあるネットワーク業務では、早く終わってもその進みは伝播せず、遅れはほとんどそのまま伝播するという厄介な特性を持っているのです。そして各工程の故障などのトラブルによる作業時間の変動の両方が組み合わされると、小さな個別工程での遅れが大きく増幅され、工場の生産システムに大きな混乱をもたらします。実際、現場のマネージャが日常的に行っている管理の実態は、日常的に発生するこれらの混乱をなんとか力業で押さえ込んでいるのが実態なのです。

 工程の作業スケジュールを管理するという問題は、TOC開発の出発点です。遅れだけの伝播という厄介な特性によって、多くの場合納期は遅れます。多くの異なった品種が混流生産される工場でのスケジュール立案は困難を極めます。説明したように、仕事の遅れは各工程での早期完了がその工程で食いつぶされ伝播しないことと、遅れがそのまま伝播するという2つの要因によってもたらされます。

 生産工程に限らず分業を前提とした業務は、それぞれを能力(生産能力)という観点から比較すると、アンバランスになっているのが普通です。これまでの常識では、この「アンバランス」という事象を好ましくないものと考えてきました。そしてスケジューリングの考え方はすべての工程の能力バランスを追求し、それぞれの工程の稼働率を100%に近づけること、すなわち「誰もが忙しく働くこと」が最適な解を求める近道であると考えられてきました。

 工程の能力バランスを取る行為は、すべての工程を五分五分の負荷(遅れも進みそれぞれ50%の確率)に近づけるといい換えることができます。五分五分の工程とはすなわち、工程に課せられた負荷が100%で能力の余裕のまったくない工程、すなわちボトルネック工程と考えることができます。お分かりのように、能力バランスの追求によって、すべての工程から50%の確率で「遅れ」が発生し、仕事は大幅に遅れることになるのです。

 TOCではまったく違う考え方を取ります。すなわち“早期完了を伝播させる仕組みを作るため”に、能力のアンバランスを「好ましい」ものとして積極的に活用するのです。それぞれの工程を、

  • 「遅れ」を発生させる工程と(ボトルネック工程)
  • 「進み」を伝播させる(非ボトルネック工程)

に分けて考え、「遅れ」と「進み」の両方が伝播するように組み立てれば、全体を最適にコントロールできると考えるのです(注:この考え方がTOCの生産管理手法である「ドラムバッファーロープ」の基本ですが、これついては後ほど詳しく説明します)。

 さらに厄介なことには、実際の工場がそうであるように多くの種類の仕事を同時進行させると、このボトルネックは砂漠の蜃気楼(しんきろう)のようにあちこちに現れては消えるように見えます。なぜならさまざまな種類の仕事を同時並行で進めることによって、それぞれの工程の負荷は大きく変動し、さまざまな場所から火の手が上がることになるのです。

 そして私たちはこの遅れを回避しようとする行動で、さらに遅れを引き起こしています。現実の仕事ではさまざまなトラブルや変動要素があり、その遅れを避けるために「投入できるものはどんどん先行して投入しておきなさい」という指示を出すことになります。この指示が出されると、いますぐに着手する必要のない仕事までが投入され、各工程の負荷は跳ね上がります。遅れを防ぐために取った行動が、結果的に新たなボトルネックを作り、さらに遅れをもたらすのです。

 そして、このボトルネックを作り出すメカニズムを増幅する、もう1つの非常に厄介な問題が工場には存在するのです。

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