設計者の前にそびえ立つハードル:CAEの理想と現実(上)(3/3 ページ)
カタログにひかれて買うものの、いつの間にかホコリを被ってしまうCAE。そこに潜む本当の問題とは? CAEベンダのマーケティング担当者が本音を語る。
設計者も、CAEをしっかりと理解する
前項で、「品質向上」「開発時間短縮」「コスト削減」は、設計者になかなか実感されにくいということを述べましたが、設計者にCAEが定着しない理由はほかにもありそうです。例えば、ツールが使いにくい、解析結果の妥当性が判断できない、時間がないといった問題です。導入年数や会社としての取り組みによっても差があるとは思います。そこで大きく「人にかかわる問題」「ツールにかかわる問題」「組織を含めた環境にかかわる問題」に分けて、あらためてCAEが定着しない理由を考えてみたいと思います。
人にかかわる問題
やはり設計者自身のCAEに関する知識や経験の問題があります。有限要素法や材料力学の基礎が分からないとなかなかCAEを使いこなすのは難しく、解析によって出てきた結果の妥当性を判断することもできません。どこまでの知識があれば事足りるのか、どのような経験を積めば結果の妥当性を判断できるようになるのかは非常に難しい問題です。
ツールにかかわる問題
もちろん使いやすいツールであることに越したことはないのですが、どこまで使いやすさを追求するかは議論が分かれます。パラメータさえ入力すれば、モデリング、メッシュ、解析をすべて自動で行ってくれるツールは確かに使いやすいかもしれませんが、内部処理が一層ブラックボックス化し、設計者は自分が何をしているのかも分からないまま解析が進んでしまう恐れもあります。一方で、自由度を多く残したツールを使用したことで、設計者が必要な解析条件の設定を忘れて解析を行ってしまい、間違った解析結果を基に設計を進めてしまう危険性もあります。
組織を含めた環境にかかわる問題
例えば、教育プログラムの問題や、ツール選定、そして、「品質向上」「開発時間短縮」「コスト削減」という前項の内容を、どのように設計者および設計部門にフィードバックするかといった問題が挙げられると思います。
このように、CAEを設計現場に定着させ「品質向上」「開発時間短縮」「コスト削減」という目標を達成するためには、押さえておかなければならないさまざまなハードルが存在しています。これらを無視して、やみくもにCAEを利用しようとしても、教習所に通わずに車を運転するのと同様に大きな事故を起こしかねないのです。逆にこのようなCAEの特徴をしっかりと把握して、課題を1つ1つ解決していくことで、CAEを定着させ、使いこなすことができるようになるはずです。そしてCAEは使いこなしてこそ価値が生まれるのです。
今回の説明では、CAE導入における問題が、どのようなことから発生するかを考えてみました。後半ではいくつかの事例を基に、問題や課題の解決方法を考えていきましょう。(次回へ続く)
Profile
新留 正俊(にいどめ まさとし)
1971年埼玉県生まれ。2006年にCAEソフトウェアの代理店であるサイバネットシステムに入社。構造・伝熱等の設計者向けCAEを中心に、さまざまなCAEツールの国内マーケティング担当として現在活動中。
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