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携帯電話OS市場を制したシンビアン、次の一手組み込み企業最前線 − シンビアン −(2/2 ページ)

2005年後半から、国内の携帯電話市場でその存在感を急激に増大させた英シンビアン。多数の携帯電話メーカーに支持され、盤石の体制を整えつつある。その勢いはホンモノなのか?

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実効性高いSymbian OSベースの基盤

 実際、Symbian OSは世界でスタンダードになるだけの魅力があるようだ。例えば、MOAP(S)を採用する三菱電機は、2005年2月にSymbian OSを初めて採用したD901iを発表して以来、1年で6機種のFOMA端末を開発。2005年秋以降、「D902i」「MUSIC PORTER X」「Music Porter II」「らくらくホン シンプル」「D702i」を立て続けに投入し、シェアも伸ばしている。三菱電機といえば、従来は同じNTTドコモ陣営のNECやパナソニックに比べて常に製品投入が遅れ、後塵を拝してきた感がある。それが一変した。いまやNECやパナソニックに勝るとも劣らない開発力を見せ付けている。


「携帯電話向けのOSは、消費電力や性能を考慮して設計されていなければならない」
「携帯電話向けのOSは、消費電力や性能を考慮して設計されていなければならない」

 OSを提供する側の久氏は、こう自信をにじませる。「同じプラットフォームでも、MOAP(S)とMOAP(L)では、カバー領域の広さが違うだろう。携帯電話は、カーネルだけでは動かない。さまざまなミドルウェアやドライバが必要であり、ほかにも消費電力や性能を考慮して設計されていなければならない。Symbian OSは携帯電話向けOSだから、それができている。確かに、μITRONからの移行に際しては、初めは(Symbian OS向けアプリケーションの開発言語である)C++のオブジェクト指向開発に戸惑うかもしれない。だが、1回手掛けてしまえば、ソフトウェア部品を再利用できるので開発はスピードアップする」。

 採用実績が増えるに従い、サードパーティが提供する対応製品も充実してきた。例えば、オペラソフトウェアが携帯電話向けWebブラウザ「Opera 8 for Symbian S60」を2005年7月にリリース。同年11月にはジャストシステムが「ATOK」でSymbian OS対応を果たした。一般に目に触れないミドルウェア関連もアイテムが増えているようだ。こうした外部環境もSymbian OS採用を後押しする。

 ともあれ、シンビアンと国内のSymbian OS勢の“蜜月関係”は深まっている。NTTドコモと端末メーカーの富士通、三菱電機、シャープ、半導体を供給するルネサステクノロジは現在、FOMA端末向けソフトウェアプラットフォームの共同開発に着手している。このプラットフォームのOSもSymbian OSだ。既存のMOAP(S)との違いは、HSDPA/W-CDMA、GSM/GPRS/EDGEという幅広い携帯電話サービス規格に対応し、海外展開も視野に入れているところ。2007年の商用化を目指している。シンビアンとしては、日本メーカーの最先端3G端末の魅力により、全世界の3G普及に拍車を掛けたい。一方の国内勢は、海外での実績が豊富なSymbian OSをプラットフォームに採用することで、海外展開を容易にしたい。両者の利害関係は一致している。

 シンビアンは、キャリアや端末メーカーなど国内の主要パートナとの関係強化を目指し、2年前から「Japan Review Board」を定期的に開催。同社の開発ロードマップを示しながら、パートナと意見交換を積極的に行っている(注)。こうした商業ベース、中長期の協業体制を組める点も、同社がキャリアや端末メーカーから信頼を得る要因なのだろう。

※注
シンビアンは、世界の主要キャリアと意見交換を図る「Operator Review Board」も定期開催している。



料金引き下げで中級機市場へ

 世界に向けたフラッグシップとして、日本の最先端3G端末への搭載を進める一方、シンビアンは次なるビジネス拡大の手を打ち始めている。「ボリュームゾーンであるミドルクラスの携帯電話での採用を進める」と、久氏が同社の事業方針を説明する。シンビアンがいくら高い市場シェアを確保しているとはいえ、それは全体の1割にも満たないハイエンド機の世界である。逆にいえば、年間出荷台数が7億台超といわれる世界市場の大部分は手付かずである。

グラフ ボリュームゾーンの変遷
グラフ ボリュームゾーンの変遷

 すでにノキアなどが海外で中級機へのSymbian OS搭載を始めているが、さらなる適用拡大を狙って2006年7月から新しいライセンス体系を導入する。これにより、製造原価によりシビアな中級機でも採用しやすくする。従来は出荷台数により端末1台当たりのライセンス料が決まっていたが、新たに端末価格に応じたライセンスメニューを設ける。最安料金は1台当たり2.5米ドルと、従来の半分という設定である。世界的には、市場拡大に伴って端末価格は年々下落しているので、シンビアンのライセンス料の実質引き下げは自然な流れだろう。

 ただ、国内は8割が3G端末であり、その中でもハイエンド機の比率が高い。世界の中では特異な市場である。一見すると、中級機向け施策とは無縁と思われるが、久氏は「日本市場でも今後は、ミドルクラスの端末が増えてくるだろう。携帯電話のARPU(月平均収入額)が頭打ちになる中で、キャリアは端末の仕入れ価格を下げたい。ユーザーニーズもハイエンド一色ではなく、多様化してくる」と分析する。NTTドコモが今春から韓国LG電子製「SIMPURE L」の販売を始めたのも、そうしたトレンドの先取りかもしれない。

 中級機市場に向けたシンビアンのテクノロジ面での切り札は、“1チップ・ケータイ”への対応と、2006年夏から端末への搭載が本格化するSymbian OSの次期バージョン「version 9」となりそうだ。最近の端末は、通信用のベースバンドチップとマルチメディア処理を担うアプリケーションプロセッサを併用していることが多い。これらを1チップ化すれば、コストを削減できる。Symbianは、米フリースケールが開発したW-CDMA向け統合チップ「MXC300-30」には対応済み。今後は、ルネサステクノロジが間もなく量産を開始するとみられる1チップ化された「SH-Mobile」にも対応する予定だ。

図 Symbian OS v9.2アーキテクチャ
図 Symbian OS v9.2アーキテクチャ

 1チップ対応を可能にするのがSymbian OS 9である。その意味で戦略上重要なバージョンアップとなる。さらに同バージョンでは、Bluetoothヘッドセットや大容量USBへの対応、「OMA DRM(Open Mobile Alliance Digital Rights Management)」準拠などによりマルチメディア機能を強化しているほか、セキュリティ面を強化した。具体的には、アプリケーション・ケイパビリティの許可とモニタリングを行うシステム防御メカニズムや、アプリケーションにプライベートでプロテクトされたデータ領域の生成を許可することで、ほかのアプリケーションやプロセスから保護する仕組みなどが盛り込まれている。久氏は「端末の機能をOSレベルで詳細に制御でき、ユーザーや外部プログラムによる改変を防げるようになった」と話す。携帯電話が社会インフラ化するに従ってセキュリティが不安視されているだけに、Symbian OS 9は注目されそうだ。

 ビジネス的に大きな飛躍を遂げつつあるシンビアンだが、「携帯電話向けOSのデファクト」という地位を不動のものとできるかどうか。同社のこれからの動きは興味深い。

関連リンク:
Symbian OS v9.2

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