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自動車用ハイテンの基礎知識:鉄鋼材料の基礎知識(15)(2/4 ページ)

今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第15回は、自動車用ハイテンについて説明する。

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ハイテンはどんな素材?

 ハイテンは「High Tensile Strength Steel Sheet(ハイ・テンサイル・ストレングス・スチール・シート)」の略称であり、和訳すると「高張力鋼板(こうちょうりょくこうはん)」となります。張力とは引っ張る力に対抗する強さのことであり、いわゆる「引張強さ」のことです。つまり、ハイテンとは「高い引張強さを持つ鋼板」のことです。以降では、引張強さのことを単に“強度”と表現することとします。

 一般的にハイテンは“圧延”によって製造された鋼板を指し、後述するホットスタンプ材とは製法が異なります。そのため、ハイテンとホットスタンプ材は製法の違いによって区別し、理解することが重要です。

ハイテンの強度

 ハイテンはどのくらいの強度があるかと言うと、SPHCに代表される通常の鋼板(軟鋼板)の強度が270MPa級であるのに対し、ハイテンはそれよりも高い強度があります。

 図4に鋼板の強度区分とハイテンの強度範囲を示します。一般的に自動車用の鋼板では、340MPa級以上のものがハイテンと呼ばれます。代表的なグレードである440MPa級や590MPa級のハイテンは、通常の鋼板の1.6〜2.2倍もの強度があります。これらのグレードのハイテンは車体の高強度化を目的として、1990年代から2000年代までに多くの自動車の車体骨格部に採用されてきました。

図4 鋼板の強度区分とハイテンの強度範囲
図4 鋼板の強度区分とハイテンの強度範囲[クリックで拡大]

 ハイテンは日本の企業や大学により、精力的に高強度化の研究開発が進められてきました。2000年代には980MPa級以上の強度を持つ「ウルトラハイテン(超高張力鋼)」の研究開発が進められ、実際に実現しています。ウルトラハイテンは極めて高い強度を持ち、耐衝突変形性に優れることから、現在多くの自動車の車体骨格部に採用されています。より強度の高い1180MPa級や1320MPa級のハイテンの実用化も一部で進んでおり、世界最高レベルの強度である1700MPa級のハイテンも日本で開発されています。[参考文献3]

ハイテンが持つ優れた成形性

 ここで自動車用鋼板に求められる材料特性について説明すると、成形性が高いことが重要なポイントとなります。自動車用鋼板はプレス成形により、曲げたり、伸ばしたりして部材の形状に成形されます。つまり、曲げたときにきれいに曲がり、伸ばしたときに伸びやすい性質が自動車用鋼板に求められます。

 しかし図5に示すように、一般的に鋼は強度が高くなると延性(引っ張ったときに伸びる性質)が低下します。そのため、ただ高強度化した鋼板は延性が低いため、成形性が悪くなります。そこでハイテンは、金属組織の作り込みによって延性を確保し、成形しやすいように製造されています。そのため、ハイテンは高強度でありながら高い成形性を持つ素材となっています。

図5 鋼の強度と延性の関係性
図5 鋼の強度と延性の関係性[クリックで拡大]

ハイテンの適用効果

 自動車に対するハイテンの適用効果は、板厚を低減しながら車体の強度を確保できる点にあります。例えば590MPa級のハイテンを1500MPa級のハイテンに置き換えると、2.4mm必要だった板厚を1.6mmまで低減することができます。これにより、車体の強度を変えることなく重量を33%削減でき、燃費性能を向上させることができます。[参考文献4]

図6 自動車に対するハイテンの適用効果
図6 自動車に対するハイテンの適用効果[クリックで拡大]

 実際のハイテン適用例を紹介すると、図7は2026年リリースのホンダ/インサイトの車体骨格部におけるハイテンの適用分布図です。340MPa級から1180MPa級までの幅広いグレードのハイテンが適材適所に使用されている他、1500MPa級ホットスタンプ材も一部に使用されています。これによって車体の衝突安全性を高めているとともに、車体の軽量化を実現しています。

図7 ホンダ/インサイトの車体骨格部におけるハイテン適用分布図[参考文献5]
図7 ホンダ/インサイトの車体骨格部におけるハイテン適用分布図[参考文献5][クリックで拡大]

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