自動車のソフト開発期間を3〜4割短縮する、Astemo子会社の新たな挑戦:SDVフロントライン(1/3 ページ)
自動車産業でSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく本連載。第6回は、国内大手ティア1サプライヤーであるAstemoが設立した、ソフトウェアとクラウドサービス事業を行う新会社であるAstemo Cypremosの代表取締役社長の上桶亨氏に話を聞いた。
グローバルの自動車市場における中国自動車メーカーの攻勢が続く中で、国内自動車メーカーも対抗すべく自動車の開発期間の大幅な短縮に向けた取り組みを加速させている。そこで重要な役割を果たすのが、ソフトウェアによって自動車の機能や価値を定義するSDV(ソフトウェアデファインドビークル)である。
このSDVの開発に向けて、興味深い取り組みを進めているのが大手ティア1サプライヤーのAstemoである。日立製作所の自動車システム事業とホンダ傘下のケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合して2021年に日立Astemoとして発足した同社だが、2024年11月にSDVへの対応の拡充や新たなモビリティサービスの実現をめざして、ソフトウェアとクラウドサービス事業を行う新会社となるAstemo Cypremos(以下、Cypremos)を設立したのだ。
Cypremosは、自動車メーカーを顧客とするティア1サプライヤーのAstemoとは異なり、自動車メーカーに加えAstemoの競合である他社のティア1サプライヤーを含めてデジタル技術を基盤に広範なシステム提案を行うIT企業という位置付けになっている。そこで、2026年6月にCypremosの代表取締役社長に就任した上桶亨氏(Astemo 代表取締役 シニアエグゼクティブヴァイスプレジデント 兼 電動ビジネス事業部 Out-Car システムビジネス推進室長を兼務)に、Cypremosの位置付けや、SDVエンジニアリングソリューション「Cypremos Engineering Suite」の開発状況などについて聞いた。
連載「SDVフロントライン」
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みつつある中で、トヨタ自動車を率いる豊田章男氏によって印象付けられた「100年に一度の変革期」という言葉に代表される通り、自動車産業も大きな変革の波にさらされている。その変革の波を端的に示す言葉として知られるのがダイムラーが2016年9月のパリモーターショーで提唱した「CASE」(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)だ。そして、このCASEの推進を支える原動力になると見られているのがSDV(ソフトウェアデファインドビークル、ソフトウェア定義型自動車)である。本連載「SDVフロントライン」では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。
In-Car領域のAstemoに対して、CypremosはOut-Car領域で貢献
MONOist Astemoではこれまでどのような事業を担当してきたのでしょうか。
上桶氏 1984年に日立製作所に入社して以降、パワートレインの営業を国内と海外を含めて30年ほど担当してきた。日立Astemoが発足してからは、パワートレイン&セーフティシステム事業部長に就任し、電動システムやSDVのビジネスユニットも統括してきた。現在は、Cypremosの代表取締役社長の他、Astemoの代表取締役に加え取締役会議長も務めている。
MONOist ティア1サプライヤーであるAstemoに対するCypremosの位置付けについて教えてください。
上桶氏 Astemoは、自動車メーカーに自動車部品を供給するティア1サプライヤーであり、自動運転や電動化など車両内部の技術進化に貢献するIn-Car領域を事業の主眼に置いている。一方、CypremosはIn-Car領域にとどまらない形で自動車に求められるソフトウェアやクラウドサービスを広く提供するOut-Car領域で事業を展開するIT企業の位置付けになる。
自動車がSDVとして“走るスマートフォン”のように捉えられつつある中で、Astemoとしても、従来のハードウェアセントリックな考え方から離れて自動車から得られるデータの活用や自動車向けの新たなサービスを手掛ける事業を展開することを検討したが、なかなか実行に移せなかった。その原因は、ハードウェアを中核とするティア1サプライヤーの事業と、ソフトウェアやクラウドサービスを提供するIT企業の事業とでは文化の違いが大きすぎることにあった。
しかし、Astemoがティア1サプライヤーである以上、このままではIT企業の事業を立ち上げられない。また、新たにITやクラウドのエンジニアを雇用する必要があるが、デジタル人材の需要が大きく高まる中で給与体系をAstemoと同じにすることも難しいことも課題だった。そこで、業界が異なるという事実を認めて割り切り、別会社として立ち上げたのがCypremosだ。
Cypremosでは、自動車業界向けにAI(人工知能)を活用して開発期間を短縮することを提案していく。立ち上げメンバーは50人弱と大きな会社ではないが、AIによる開発期間の短縮に対するニーズは自動車業界以外でも強いものがある。先ほど「Out-Car領域で事業を展開する」という話をしたが、自動車業界にとどまらず別の業界でも使ってもらえるようにしていきたいという意味合いでも“Out-Car領域”に貢献するという志を持った会社だ。
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