AIと人の共創で進化する「G-SHOCK」 デザイナーが語る製品化の舞台裏:デザインの力(1/3 ページ)
カシオ計算機は、G-SHOCKの「MTG-B4000」「GMW-BZ5000」のデザイン開発にAIを活用した。従来の発想を超えるスタイリングを、どのように製品へと落とし込んだのか。導入の背景や具体的な活用方法、設計部門との連携、デザイナーに求められる役割について、同社のGデザイン室長である赤城貴康氏に聞いた。
カシオ計算機の耐衝撃ウォッチ「G-SHOCK」の中で、人とAI(人工知能)の共創による造形を採用したモデルが「MTG-B4000」(2025年6月発売)と「GMW-BZ5000」(2025年11月発売)だ。両モデルの開発には、G-SHOCK40周年を記念したドリームプロジェクト第2弾のコンセプトモデル「G-D001」で得た知見も生かされているという。
AI活用の出発点となったのは、「時計の常識を覆す新たなスタイリングを生み出したい」という思いだった。一方、斬新なアイデアをG-SHOCKとして製品化するには、耐衝撃性能を確保するとともに、ブランドが培ってきた“らしさ”も表現しなければならない。
AIをどのように使い、製品へと落とし込んだのか――。カシオ計算機 開発本部 デザイン開発統轄部 Gデザイン室 室長の赤城貴康氏に、AI活用の背景や効果、そして、AIを使うことで見えてきた人の役割を聞いた。
デザインと設計の密な連携が支える「G-SHOCK」開発
MONOist まず、通常のG-SHOCKのデザインプロセスと、その中でデザイナーが担う役割について教えてください。
赤城氏 大きく分けると、新型モデルを作る仕事と、既存モデルを基にカラーバリエーションなどを展開する仕事があります。
新型の場合は、商品企画部から企画書を受け取り、それに沿って担当デザイナーがアイデアを広げるところから始めます。デザインディレクターと議論しながら案を絞り込み、デザインスケッチを仕上げていく流れです。
その後、デザイナー自身が3D CADでデータを作成します。ただ、画面上で見るだけではサイズ感などが分かりません。時計は腕に着けるものですから、3Dプリンタで何度かモックアップを造形し、実際に腕に当てて、大きさや腕へのなじみ方などを繰り返し確認します。
形状がまとまったら社内会議にかけ、量産化に向けて動き出します。その後、外装設計担当者に渡すため、整合性を整えた正式な3D CADデータを作成する、という手順です。
設計部門との相談は、それ以前から行っています。時計は非常に小さく、特にG-SHOCKは耐衝撃構造が基本にあるため、デザインと設計の密接な連携が欠かせません。「これはできる」「ここは難しい」と常にやりとりしながら進めています。
設計者と具体的な調整を始める時期は、プロジェクトによってさまざまです。新しい構造そのものから作る場合は、最初のアイデア段階から打ち合わせを設け、基本構造が決まっている場合は、デザイナーが3Dデータを作った段階から調整を始めています。
デザイナーと設計者で、ときには意見が食い違うこともあります。ただ、G-SHOCK開発に関わるメンバーは、設計者も含めて「新しいことに挑戦したい」「新しい技術や構造を取り入れたい」という思いが強く、目指している方向は同じです。お互いの意見をすり合わせ、双方が納得できる形を一緒に探していける、良い信頼関係を築けていると思います。
もう1つのカラーバリエーションの仕事で検討するのは、CMF、つまり色、素材、仕上げです。テーマに沿ったカラースケッチを描き、モックアップに実際の塗装を施してサンプルを作り、それを会議で確認して量産化へ向けて承認を得ます。G-SHOCKはCMFにも力を入れているので、この領域でも早い段階から設計者と相談しています。
G-SHOCK開発では、基本的に1つのプロジェクトに1人のデザイナーがつき、製品化まで一貫して手掛けます。自分で全体を担当できるので、製品への思い入れも強くなりますし、そこはとても楽しいところですね。
時計の常識を覆すため、AIでアイデアを広げる
MONOist G-SHOCKの開発プロセスにAIを取り入れようと考えた背景と、取り組みの経緯を教えてください。
赤城氏 出発点は、「時計の常識を覆したい」「これまでにない新しいスタイリングを生み出したい」という思いでした。
従来のG-SHOCKの開発アプローチでは、どうしても構造的で無機質なスタイリングが多くなりがちです。時計としての美しさや、ファンが求めるG-SHOCKらしさを大切にしながら開発していますが、デザイナーの頭の中には、どうしても固定観念というものが残ります。そこから抜け出せず、有機的で刺激的な新しいアイデアが生まれにくくなっているのではないか? という危機感を持っていました。そこで、新しい刺激やきっかけを得るために、AIを使ってみようと考えたのです。
カシオ社内には半年に一度、新商品や新しい技術のアイデアを提案できる制度があります。量産を前提にした提案だけでなく、研究的なテーマも出せる場です。2021年に、その場で「従来の作り方を変え、G-SHOCKとAIを融合させたら、どのような未知のスタイリングが生まれるか」という研究テーマを、デザイン側から提案しました。
その時に提示した形状が非常にユニークで、耐衝撃構造のデザインや開発にAIを活用するアプローチも、社内で「面白い」と評価されたのです。そこで、まずドリームプロジェクト第2弾で実際に形にしてみることになり、そこで得た知見が、後のMTG-B4000やGMW-BZ5000といった量産モデルへとつながっています。
MONOist 具体的には、どの工程で、どのようにAIを使っているのでしょうか。
赤城氏 デザインでAIを活用したのは、最初のアイデア出しの段階です。AIを使って、アイデアのバリエーションを一度大きく広げる、という使い方をしました。
ただ、何も前提を設けずに「G-SHOCKの新しいデザインを出して」と任せるわけではありません。「今回はこういうスタイリングを目指す」「この部分を骨格として成立させる」といったベースをデザイナーが先に決め、その制約の下でAIにアイデアを検討させています。
例えば、最初に「3つのフレームで構成された骨格を生かしたデザインにしたい」というコンセプトを決め、その骨格を基に案を広げます。指示を与えたり、方向性をコントロールしたり、出力を判断したりするのはあくまでも人間です。
そうした指示に基づいて、AIがイメージを提示してくれます。中には非常に有機的で、そのままでは到底時計にできないような形状も少なくありません。それでも、「この部分をG-SHOCKの設計思想に落とし込めば面白くなるのではないか?」「ここはヒントにできそうだ!」と、可能性の種を見つけていきます。
AIを使って広げたアイデアを基にデザイナーが形状をまとめ、その耐衝撃性能を検証するのが外装設計チームです。これまで蓄積してきた評価データを基に、解析/評価ツールでシミュレーションを行っています。
落下時にどの方向からどのような力がかかり、それに耐えられる構造になっているかを確認し、強度が足りない部分があればデザイナーに結果を戻します。それを受けて形状を修正し、再び検証するという流れです。
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