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テスラにおけるギガキャストの基本的な考え方と方向性【中編】いまさら聞けないギガキャスト入門(7)(3/4 ページ)

自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第7回は、第6回の前編に続き、テスラのギガキャストに関する基本的な考え方とその方向性について見てみる。

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3.MBHとは何か

 MBH(Man Hours per Body)は、「ボディー車体1台を完成させるために必要な総工数(人間の労働作業時間換算)」を示す指標である。

 MBHは部品点数の削減によって改善できる。これは、車体製造における「時間のムダ」が根本的に消えるためだ。自動車の車体製造は溶接工程が非常に多く、工程時間のばらつきやロボット動作の複雑さが生産性を下げる大きな要因になっている。公開されている技術資料や研究からも、この構造的な問題が明確に示されている。

 ロボットを多く使用していても、段取り、監視、補正、検査などの工程で人手の作業が必ず発生する。このため部品点数が多いほどMBHは増える。

1)部品点数削減がMBHを改善する理由

 実際に、ギガキャストの導入前後でMBHがどれほど改善するのかを「工程フロー図」で比較してみればわかる。

 図12にギガキャスト導入前後の工程フロー図の比較を示す。

図12
図12 ギガキャスト導入前後の工程フロー図の比較[クリックで拡大]

 図12を見れば、ギガキャストの導入前後でMBHがどれほど改善、変化するかが直感的に理解できる。重要なのは、工程の「数」「複雑さ」「人間が介在するポイント」である。

2)組立工程が短くなる

 車体製造では、溶接ロボットが数百カ所のスポット溶接を行う。ある研究によれば、自動車の車体組み立ての約90%がスポット溶接で占められるという。溶接工程は時間変動が大きく、生産ラインのボトルネックになりやすいと報告されている 。

 部品点数が多いほど、以下のような影響が発生する。

  • ロボットの動作経路が長くなる
  • 溶接点が増える
  • 段取りや位置決めが複雑になる

 結果として、1台当たりの処理時間が増え、MBHが悪化する。ギガキャストにより、部品点数が1点になれば、そもそも溶接工程の大部分が消えるため、MBHは劇的に改善する。

3)検査工程が簡略化される

 溶接工程には、以下のような問題が付きまとう。

  • 溶接品質のばらつき
  • 熱変形
  • スパッタ(溶接時の金属飛散)

 溶接品質は電流、時間、位置ずれなどの影響を受けやすい。研究でも、溶接プロセスは時間変動が大きく、ライン性能に大きな影響を与えると指摘されており、その管理は難しい 。

 部品点数が減れば、検査工程の関連で以下のような効果が得られる。

  • 溶接点が減る
  • 検査対象が減る
  • 不具合の発生源が減る

 結果として、検査に必要な工数が大幅に減りMBHが改善する。

4)ロボットプログラムが単純化される

 溶接ロボットは、以下のような複雑なプログラムを必要とする。

  • 多軸動作
  • トーチ角度の制御
  • 経路計画
  • 衝突回避

 溶接自動化の技術資料を調べると、ロボット溶接は高度な制御/プログラミングが必要で、設備投資や保守負荷が大きいとされている 。

 部品点数が減れば、ロボットプログラムの関連で以下のような効果が得られる。

  • ロボットの動作経路が短くなる
  • プログラムが簡単になる
  • 段取り替えが減る
  • 保守/調整の頻度が減る

 結果として、ロボット監視や調整に必要な人間の工数が減り、MBHが改善する。

5)MBH改善の本質

 部品点数削減は、単に「作業が減る」ことよりも、「工程そのものを消滅させる」ことが本質である。

  • 溶接工程が消える
  • 検査工程が減る
  • ロボットの動作が単純化する
  • 工場のラインバランスが安定する

 これらが積み重なり、車体1台当たりの工数(MBH)が大幅に改善する。

 表3に、ギガキャストの導入前後の工程数/MBHの比較を示す。

項目 ギガキャスト導入前 ギガキャスト導入後
部品点数 約70点 1点
溶接点 数百カ所 0
溶接ロボット 数十台 0
検査項目 多数(溶接品質含む) 少数(外観・寸法)
工程数 20〜30工程 5〜8工程
MBH 高い(複雑) 低い(単純)
表3 ギガキャストの導入前後の工程数/MBHの比較

 MBHは企業が公表しない指標だが、テスラがギガキャストを導入したリアアンダーボディーについては以下のようなことが推定できる。

  • ギガキャストの導入により、リアアンダーボディーのMBHは50〜80%程度削減される可能性が高い
  • 工場全体のMBHでも10〜20%程度の改善効果が見込まれる(車体製造の中でリアアンダーボディーが占める比率を考慮)

 これは、単なる効率化ではなく、工程そのものの消滅による構造的改善である。このように、ギガキャストを考案したイーロン・マスク氏の思想には以下のような特徴がある。

従来「作業者の改善」⇒マスク氏「作業そのものを消す」

 例えば、「溶接ロボットを高速化する」のではなく「溶接する必要をなくす」という方向性である。

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