1990年代末〜2000年代初頭の国際協調プロジェクト 大規模宇宙機器開発(その2):ものづくりをもっと良いものへ(8)(1/3 ページ)
本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第8回は、国際宇宙ステーション向け人工重力発生装置の開発を題材に、設計工学を実際の開発に適用した結果について振り返る。
前回は、NASA(米航空宇宙局)が中心となって推進した国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)向けの人工重力発生装置(CR:Centrifuge Rotor)の開発について紹介した。
今回は、この開発を機に、これまでに培ってきた設計工学の考え方や手法を、人工重力を発生させるCRの開発に適用した結果について紹介する。
CR開発で適用を試みた設計工学の考え方/手法/ツールは以下の通りである。
- 設計論
- DfX(Design for X)手法
- 最適化手法
- CAD/CAE
- CFD(数値流体力学)
- ナレッジマネジメント
- リスクマネジメント
以降、その結果について述べ、最後に総括する。
注:「モノ」「もの」の表記について、本稿では「モノ:生産要素または経営資源といった手段」「もの:生産活動により付加価値を持った成果物」と使い分けて表記しています。また、「人」「ヒト」「ひと」の表記については「人:一般的」「ヒト:生物学的」「ひと:人間的(ものとの対比)」と使い分けています。
設計論
設計論というと、吉川弘之博士が提唱した「一般設計学」や、Nam P. Suh博士の「公理的設計」を思い浮かべるが、もちろんそのような高度な理論を適用したわけではない。設計を行うに当たっての原理原則を忠実に守ったのである。それは、
- 単純なものほど優れている
- 新技術は導入しない
の2点である。できたものを見ると十分に複雑であるし、磁気ダンパのような新技術も導入されている。上記2点がいっていることは、意味もなく複雑にするな、好みで新技術を導入するなということだ。いずれもシステムとしてのリスクを高めるからである。開発途上では多くのアイデアが出され、中には非常に優れたものもあったが、上記方針を死守した。これは結果的に正しかったと考えている。
最近になって、このような経験的に知っている設計上の原理原則が、吉川博士の一般設計学やSuh博士の公理的設計で説明できることに気がついた。これらの設計論を提唱した人たちは、われわれとは次元が異なるところで設計を理解していたのである。
DfX手法
ここでいうDfX手法は、「シックスシグマ」手法と置き換えてもよいかもしれない。CR開発では、「FMEA(故障モード影響解析)」「DSM(設計構造マトリクス)」「QFD(品質機能展開)」などを適用したが、ここではDSMと「Microsoft Project」を併用したスケジューリングについて紹介する。
図1に、その結果を示す。試作実験の際の手順について、人による従来の方法(Before)と、本手法を適用した方法(After)を比較したものである。若干ではあるが、本手法による効果が読み取れる。
最適化手法
CRで発生する振動をNASAの仕様範囲内に収めるためには、CR支持系のばね/減衰定数をどのように設定すればよいのか――。その最適値を最適化ツール「iSIGHT」(現在の表記は「Isight」)で求めた。
図2に示すように、決めたい設計パラメーターは、並進方向のばね定数/減衰定数、鉛直方向のばね定数/減衰定数、倒れ方向のばね定数/減衰定数の計6つである。目的関数は振動変位で、これを最小化したい。一方、制約条件は加速度で、NASAから上限値が決められていた。これだけ条件が決まっていればiSIGHTでの計算は可能だが、実際には重量面の制約から減衰機構にも限界があり、減衰定数には上限を設けた。
結果を図3に示す。目的関数である振動変位は、従来値から30%減となった。ばね定数は、従来設計では500N/mであったが、今回の計算では1000N/mとなっている。一方、減衰定数は設定した上限値に張り付いた。なお、計算時間は1時間程度であった。
同様の計算は人間系でもできるかもしれないが、効率面ではこのような手法が効果的だろう。ここで重要なのは、計算自体は1時間程度であっても、条件設定には多くの時間を要したという点である。実は、設計手法を用いる場合には、この条件設定が最も重要になる。
計算機は何も考えず、与えられた条件に忠実に従うだけである。すなわち、こうした設計手法を生かせるかどうかは、条件設定の際に設計者がどれだけ知恵を絞り、的確な指示を与えられるかにかかっている。また、出てきた結果は恐らく設計者が想定したもの(期待以上でも期待以下でもなく)であり、その想定していたものが数値として具体的に提示されるところに、この種の手法を設計に適用する意味があると考えている。
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