1990年代末〜2000年代初頭の国際協調プロジェクト 大規模宇宙機器開発(その1):ものづくりをもっと良いものへ(7)(1/3 ページ)
本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第7回は、1990年代末から2000年代初頭にかけて携わった、国際宇宙ステーション向け人工重力発生装置の開発プロジェクトを取り上げる。NASAとの設計審査や技術打ち合わせを通じて見えてきた、米国流のSystems Engineeringと日本のものづくりの違いを振り返る。
今回から2回に分けて、NASA(米航空宇宙局)が中心となって推進した国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)向けの人工重力発生装置の開発について紹介する。
NASAが使用する機器を日本側が製造するプロジェクトであり、米国流のものづくりの方法を知る大きな機会でもあった。その視点から、当時の経験を振り返ってみたい。
注:「モノ」「もの」の表記について、本稿では「モノ:生産要素または経営資源といった手段」「もの:生産活動により付加価値を持った成果物」と使い分けて表記しています。また、「人」「ヒト」「ひと」の表記については「人:一般的」「ヒト:生物学的」「ひと:人間的(ものとの対比)」と使い分けています。
セントリフュージ・プロジェクト
宇宙環境で人工重力を発生させるセントリフュージ関連設備について、NASAからJAXA(宇宙航空研究開発機構)に開発依頼があった。なお、当時は現在のJAXA発足前の体制であったが、本稿では便宜上、現在の組織名に合わせて「JAXA」と表記する。
セントリフュージ関連設備は図1に示すように、ISSに搭載する生命科学実験施設として計画されたものである。本来はNASAが開発、使用するものであったが、諸般の事情により日本側が開発を担うことになった。ただし、利用主体はあくまでNASAであった。
対象となる設備は、生命科学実験用の隔離作業空間であるLSG(Life Sciences Glovebox:生命科学グローブボックス)、人工重力を発生させるCR(Centrifuge Rotor:人工重力発生装置)、これらを搭載するCAM(Centrifuge Accommodation Module:セントリフュージ実験モジュール)などから構成される。JAXAはこれら装置の開発について国内メーカーを対象に公募し、公募の結果、CAMはM社、CRはT社が受注した。
NASA/JAXAから提示された開発スケジュールを図2に示すが、これは後に示すように“絵に描いた餅”となる。表の最初に示されているLSG開発は、I社が受注した。事業部が窓口であったが、開発要素が多いということで、研究所が主体となって実施した。
CR(人工重力発生装置)の開発
T社が開発するCRの基本構造を図3に示す。CRの概念設計は、既に米国の企業がNASAから委託を受けて実施済みであり、これを出発点に基本設計以降を行った。
人工重力の発生は、試験装置を回転させることによって実現する。回転体は、搭載する動植物によってアンバランスを発生させ、振動を誘起する。これを防ぐために振動をリアルタイムで計測し、そこから修正バランス量を算出し、動バランス量、静バランス量に変換して回転体に与えることで、振動を自動的に制御した。
これが図3右図の自動バランスシステム(ABS:Auto-Balance System)制御システム(ABS Control)であり、静バランサおよび動バランサを動かすことによって実現する。
一方、ISSには多くの試験装置が搭載されており、これらからの外乱がCR内の試験物に影響する可能性がある。これを最小化するのが、図3下図の振動抑制機構(VIM:Vibration Isolation Mechanism)である。VIMは、振動系のばね要素と減衰機構から構成される。減衰については、宇宙環境では材料が制約されるため、VCM(Voice Coil Motor)を採用した。
基本設計は、NASAから与えられた膨大な基本設計仕様書に基づいて実施した。その中でも基本となる仕様を図4に示す。
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