「自動運航」と「協調操船」の最新要素技術――第26回海技研研究発表会より:船も「CASE」(3/3 ページ)
「第26回 海上技術安全研究所研究発表会」から、自動離着桟の安全性評価、AISでは捉えられない船舶交通の推定、LPWAによる船船間通信という3つの研究を取り上げ、自動運航船の安全な運用に必要な技術と、各研究で得られた成果、今後の課題を解説する。
小型/低価格のLPWAで船同士の意思疎通を支援
船舶同士は海上衝突予防法に基づいて避航するが、実際の海上では、相手船の意図を確認し、通過方法を相互に調整する必要が生じる場面もある。現在は国際VHFによる音声通信が使われるものの、言語や解釈の違い、音質、呼び出し先や送信元の船を特定しにくいこと、呼び出しても応答がないことなどが意思疎通を妨げる。さらに、自動運航システムで音声通信に対応するには、音声認識に加えて、発話内容や相手船の意図を解釈する仕組みも必要になる。AISやVDES(VHFデータ交換システム)によるデータ通信も候補になるが、機器価格、小型船への普及、ペイロード、混雑海域での送信機会などに課題がある。
海技研では代替手段として、920MHz帯の特定小電力無線としてLoRa方式を使用し、送信出力を20mWとした。この条件では無線局免許を必要とせず、通信モジュールも数千円程度で調達できる。基地局や通信契約を必要とせず、共通設定を持つ端末同士で直接通信できる。
実験では、通信速度などの設定が異なる6系統の送受信機を2隻の小型船に搭載し、GPS位置など98バイトのデータを10秒ごとに送信した。最も低速な400bpsの設定では、最長20.4km、安定的には約16kmで受信できた。受信信号強度は、直接波と海面反射波の干渉を考慮した2波モデルとおおむね一致しているという。ただし、低い転送レート設定では1回の送信に2.9秒かかり、多数の船が同じ周波数を使う用途には向かない。通信速度を11kbpsまで上げると到達距離は短くなったが、受信系にLNA(低雑音増幅器)を加えると、受信信号レベルが10〜15dB向上し、通信距離が3〜4km伸びた。洋上は外来雑音が小さいため、LNAの効果を得やすいという。
実験には920MHz帯、出力20mWのLoRa方式を採用した。写真上はGPSと電池を内蔵する単独動作型送受信機、下はUSB接続型送受信機。基地局や通信契約を必要とせず、端末同士で直接通信できる構成とした。通信モジュールは数千円程度で、小型船への搭載も想定しやすい[クリックで拡大] 出所:海技研
ノンセルラーLPWAによる船船間通信の基礎実験。発信機を搭載した船から離れながら受信状況を記録し、通信速度の異なる設定ごとに到達距離を計測した。最も低速な400bpsの設定では、最長20.4km、安定的には約16kmで受信できた[クリックで拡大] 出所:海技研
11kbps、送信時間54ms、15秒間隔、送信成功確率70%を仮定すると、最悪条件に近いPure ALOHAでは約50台、送信時刻をそろえるSlotted ALOHAでは約100台を収容できると試算されている。これならば、半径12.7km以内の端末が50台以下なら、半径8km以内の船とは50%以上の確率で通信できる見込みだという。ただし、外洋では実用性が期待できる一方、講演で示された東京湾の例では半径12.7km以内に91隻が存在し、Pure ALOHAを前提とした約50台の収容能力を上回った。このため、高密度海域では、通信を高速/短距離化する設定や、GPS時刻を使った送信タイミング制御が必要になる。
11kbps設定における受信電力と通信距離の関係。端末の信号に8dB以上の電力差があれば強い信号を復調できるとの前提から、半径12.7km以内が50台以下なら、半径8km以内の船とは50%以上の確率で通信できると試算した[クリックで拡大] 出所:海技研
講演では今後の開発方針として、画面上で相手船を選び、「あなたの後方を通過します」などの定型文を相手側の言語で表示する協調操船システムへのLPWAの適用例が示された。漁船や漁具の位置通報、落水者の位置を通報するライフジャケット型端末、自動運航船と周辺船とのデジタル通信も、応用候補として挙げられた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「デジタルツインの海」や「自動避航アルゴリズム」で海上輸送の安全を確保せよ
海上技術安全研究所(海技研)が第25回研究発表会を開催。「海技研の研究開発と社会実装の進展」をテーマとした発表の中から、海技研が最重上課題の一つに位置付ける「海上輸送の安全の確保」に関わる3つの研究成果について紹介する。
船舶の脱炭素はなぜ難しいのか、水素エンジン開発と船舶設計の2軸から見る現実解
海上技術安全研究所が開催した「第25回講演会 海事産業における脱炭素とGXの最新動向」では、船舶の脱炭素に向けて、水素エンジンの最前線に立つ開発現場の視点と、燃料が未確定な時代を前提にした船舶設計の考え方という2つの軸から現実的な解が提示された。
「このままでは海運の物流不全は不可避」に気付かされた海技研の内航研究
内航海運は日本の物流を支える重要な基盤だが、船員と船舶の高齢化が進んでおり、この状況を放置すれば物流不全は不可避だ。海上技術安全研究所(海技研)の第24回講演会では、内航海運が抱える問題の解決策として海技研が取り組んでいる研究に関する進展状況が紹介された。
既存船が自動運航船に!「第二ほくれん丸」の操舵室に見るレトロフィットの妙
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第14回は、既存のRORO船に自動運航機能をレトロフィットで追加した「第二ほくれん丸」の操舵室の構成や、導入された自動運航システムの構成などについて解説する。
“生まれたときから自動運航船”な「げんぶ」の操舵室はどうなっているのか
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第13回は、設計段階から自動運航機能の搭載を前提に建造された内航コンテナ船「げんぶ」の操舵室の構成や、導入された自動運航システムの構成、航行判断アーキテクチャなどについて解説する。
旅客船の「レベル4相当」自律運航の実力は? 操船ブリッジかぶりつきレポート
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第12回は、国際両備フェリーの旅客船「おりんぴあどりーむせと」を用いた「レベル4相当」自律運航の実証デモについて、操船ブリッジからのかぶりつきレポートをお送りする。

