“生まれたときから自動運航船”な「げんぶ」の操舵室はどうなっているのか:イマドキのフナデジ!(13)(1/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第13回は、設計段階から自動運航機能の搭載を前提に建造された内航コンテナ船「げんぶ」の操舵室の構成や、導入された自動運航システムの構成、航行判断アーキテクチャなどについて解説する。
2026年1月30日、神戸港(兵庫県神戸市)で自動運航機能を導入した内航コンテナ船「げんぶ」の関係者向け説明会が開かれた。げんぶは“レベル4相当”の自動運航機能による商用運航を世界で初めて開始(2026年1月時点日本財団調べ)したというだけでなく、設計段階から自動運航機能の搭載を前提に建造された本船(海事分野における貨物を運ぶ主体となる船のこと)という意味でもエポックメイキング的な存在といえるだろう。
説明会では、自動運航機能による着岸と離岸を想定したデモ操船を実施した他、自動運航に最適化した操舵室内部を公開した。本記事では、説明会および操舵室公開で得た情報を基に、げんぶの操舵室の構成や、導入された自動運航システムの構成、航行判断アーキテクチャなどについて解説する。
設計段階から自動運航機能を前提にした内航コンテナ船「げんぶ」。総トン数5689トン、全長134.94m、積載能力20フィートコンテナ換算で696個。レベル4相当の自動運航機能を搭載しており、定期航路で商用航海を実施した[クリックで拡大]
設計段階から自動運航を前提とすることのメリットとは
げんぶは、設計段階から自動運航システムの搭載を前提に建造された大型内航コンテナ船だ。MEGURI2040プロジェクトを管轄する日本財団 常務理事の海野光行氏は「既存船に自動運航機能を後付けする方式と異なり、操舵室レイアウトや機関制御、センサー構成などを自動運航機能に最適化できるおかげで、げんぶでは、操船、機関、監視といった船舶の主要機能をシステムとして統合しやすくなった」とそのメリットを訴求する。
自動運航において、航海中は各種センサーや航海機器が取得するデータを基に、自動運航システムが航路判断や衝突回避を支援する。ブリッジにおける操舵や機関の制御機能もシステムと連携させ、実際の商用航海の中で自動運航機能を運用できる構成を整えた。
今回の実証では、コンテナを積載した実際の商用航海において自動運航機能を組み込んだ運航データを蓄積していく。こうした実運航データは、自動運航船の安全性評価や技術基準の検討にも活用するだけでなく、今後、IMO(国際海事機関)などにおける自動運航関連の国際法規策定や規格の標準化を見据えて、実船による運航実績を積み上げていく点も、このプロジェクトの大きな目的となっている。
げんぶに導入した自動運航システムは、単一のAI(人工知能)が全てを判断する構造ではなく、複数の機能モジュールが段階的に処理を行うアーキテクチャで構成されている。
まず、最初の段階で、レーダーやカメラ、AIS(自動船舶識別システム)などの各種センサーによって自船の外周情報を取得する。これらのセンサーは見張りなど人間の視覚に相当する役割を担っており、周囲の船舶や障害物の位置、航行状況などを観測する。複数のセンサーから得た情報はそれぞれが船内の自動運航システムで統合処理され、外周状況をデジタルデータで再構成する。
次の段階で、統合した外周データを基に周囲の状況を認識する。ここで船舶や障害物の識別、各船の航跡推定、衝突の可能性を予測する。人間の操船で言えば、周囲の船の動きを“眼”で把握しながら(レーダーと言えどその画面を眼で把握するわけで)、把握した対象が今後の航行にどの程度危険なのかを評価する段階に相当する。
ここで衝突の可能性を検出した場合、回避するための航路=避航計画を立案する。この段階では単に危険な対象を回避できる最短航路を求めるのではなく、国際的な海上衝突予防規則(=COLREGs)や航路情報、周囲船舶の動きを考慮した航路計算を実施する。そのため、自動運航における避航計画ロジックには、海上交通関連諸法規の適用が必須となる。
避航計画を立案した後、その計画が実際に実行可能かどうかも検証する。この検証では船の運動性能や旋回半径、該当海域の水深情報などを考慮する必要がある。水深が喫水に満たない浅瀬への進入や、船の性能では実現できない操船になっていないかなどを確認し、問題がある場合は再び航路計画を立案し直す。この段階は、AIの判断を船舶運動モデルで検証する安全確認プロセスといえる。
最後に、採用した避航計画に基づいて舵や主機を制御して、実際の操船を実行する。この操船は既存のオートパイロット系統と連携しており、自動運航システムが生成した航路計画に従って船が航行することになる。
このように、げんぶの自動運航システムは、外周観測、危険認識、避航計画立案、計画検証、操船制御という複数の機能を連携することで実現している。ここでは、AIが単独で操船を決定するのではなく、段階的な処理と安全確認を組み合わせたシステムとして設計されている点が商用航海における自動運航システムでは必須となることも重要なポイントといえるだろう。
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