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触媒の耐久性と劣化機構燃料電池と構成材料の基礎知識(5)(4/5 ページ)

本連載では、水素を燃料として発電する「燃料電池」について、基本事項から技術開発動向までを、技術系の方でなくても理解できるように解説していきます。第5回では、燃料電池の耐久性に視点を置き、構成材料の最重要材料の1つである触媒の劣化が起こる要因について説明していきます。

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6.カーボン担体が腐食すると何が起きるか?

 Pt/C触媒のカーボン担体の酸化消失が、どこでどのように進行するのかについては、電子顕微鏡での観察をしながらの事例など、さまざまな研究が発表されています。かなり理解が進んできてはいますが、まだ不明なことが多いというのが現状です。図7には、カーボン担体が腐食する際のイメージを示しています。

図7 カーボン担体の電気化学的腐食
図7 カーボン担体の電気化学的腐食[クリックで拡大]

 もしPt粒子がカーボン担体と接している部分が腐食すると、Pt粒子が担体から脱落してしまいます。そのままの状態が続くと担体との導通が無くなりますので、電極反応には寄与しなくなり(ECSAの減少)、活性が低下することは容易に想像できます。

 また、Pt粒子周辺のカーボンが腐食していくと、担持されているPt粒子が不安定になり、担体上を移動する駆動力になる事も考えられています。前出の図2(1)に示したPt粒子の移動/凝集の原因の1つとして挙げられます。

 カーボンが腐食すると、グラフェンの6角形構造が壊れて、一部には新たな官能基が形成されることが推測されます。-COOHや-CHOなどの官能基は水との相性(ぬれ性)が良く、カーボン表面に水が滞留しやすくなります。触媒層中に水が滞留しやすくなると、酸素の拡散性が低下、つまり濃度過電圧が上昇してセル電圧の低下を招きます。

 カーボン担体の耐腐食性を向上させることは、触媒の耐久性向上ひいては燃料電池の耐久性向上にはとても重要なことです。そのためにはカーボンがどのような機構で腐食するのか、さまざまな研究が行われてきています。ここでは詳細には触れませんが、Ptがカーボンの腐食を促進している、PtO/PtO2のようなPt酸化物はカーボン腐食を抑制する、PtOHの様なPt酸化物はカーボン腐食に関与する、などのさまざまな論文が発表されています。

 Ptがカーボン腐食にどう関与するかの議論は今後も続くとして、重要なことは電位が高くなるほどカーボンの酸化消失は起きやすくなるということです。図5に示した通り、カソード電位が高くなるほどカーボンの酸化反応との電位差が広がり、2つの電位差を電子が転がり落ちる勢いが大きくなることがイメージできます。この後に説明するように、カソードが極端に高電位になることでカーボンの腐食が進行する事象も観測されています。

7.燃料電池の起動時に起こるカーボン腐食

 燃料電池のセルに水素/酸素(空気)を流し始めることで発電の準備が整います。2000年代の中ごろから、燃料電池の起動時にカソードのカーボン腐食が起こることが問題視され始め、起動時の劣化機構の研究が多数行われてきました[参考資料3]。それとともに、起動停止サイクルに耐久性が高い触媒の開発や、起動時の劣化を抑制するための運転法の開発などが進んできました。

 セル起動時にセル内で起こる現象を図8に従って説明していきます。ここでは、両極が空気(酸素)で充満している状態で両極にガスを流し始めます。回路はまだ開回路状態(外部負荷に接続していない)とします。少し長くなりますが、図を参照しながら説明を順に追ってみてください。

図8 セル起動時にセル内部で起こる反応(図中I〜VIは本文を参照)
図8 セル起動時にセル内部で起こる反応(図中I〜VIは本文を参照)[クリックで拡大]

(I)アノード流路に水素が入り始め、水素で置換された部分とまだ空気が残っている部分との間に界面(図8中の水素フロント)ができる。

(II)水素と接触したアノード触媒上で水素酸化反応が起こる。

(III)上記(II)で生成した電子が、まだ空気が充満している部分に向かってアノード電極層内を移動する(図8中のアノードの緑線)。同時に、上記(II)で生成したプロトンが電解質膜を通ってカソードに移動する。

(IV)アノード内に残存している酸素が、上記(III)で移動してきた電子および電解質膜から供給されるプロトンと反応して水が生成する(酸素還元反応)。

(V)上記(IV)で消費された電解質膜中プロトンを補充しようとして、水が存在するカソードで次の反応が起こる。

(11) C+2H2O → CO2+4H++4e-

(12) 2H2O → O2+4H++4e-

(VI)上記(V)で生じた電子が、上記(III)でプロトンが移動したカソード触媒部へ移動し(図8中の青線)、カソード流路内の酸素と反応して水が生成する(酸素還元反応)。

 以上の過程が進むことで、開回路状態でもセル内部で回路が形成されて電池反応が完結することが分かります。起動時にカソード電位が条件によっては短時間ですが1.5Vまで上昇するということが実験的に確認されています[参考資料4]。これは(11)式が進行するには十分に高い電位です。

 上記(V)の過程で、(12)式の水電解反応だけ起これば問題ないのですが、実際にセルの起動停止を繰り返すと、(11)式のカーボン材料の腐食反応も進行し、CO2が生成することが多くの論文で報告されています。また、カソード触媒層が薄くなる現象も確認されています。

 特に移動媒体用の燃料電池は起動停止が頻繁に起こります。カソード触媒にとって、起動停止の繰り返しに対して高い耐久性が要求されます。今後の連載で触れる予定ですが、耐久性向上の1つの方法として、担体の耐久性に着目した材料開発が多数行われてきています。

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