触媒の活性向上:燃料電池と構成材料の基礎知識(4)(2/5 ページ)
本連載では、水素を燃料として発電する「燃料電池」について、基本事項から技術開発動向までを、技術系の方でなくても理解できるように解説していきます。第4回では、前回解説した電極触媒の基本事項から発展して、電極触媒の活性向上をどのように図ってきたのか、特に「比活性」という指標に着目して説明していきます。
2.固体高分子形燃料電池用の合金触媒
前段ではPAFC用の各種Pt合金触媒の活性について説明しました。同様のPt合金触媒をPEFC用に適用すると、Pt単独触媒と比べて活性がどうなるのかを比較した例が図2のデータになります[参考資料2]。
図2 PEFC条件下でのPt/CおよびPt合金/Cの比活性[クリックで拡大] 出所:森田敬愛、固体高分子形燃料電池電極触媒開発の現状と課題、自動車技術会春季大会燃料電池フォーラム発表資料、2005年5月
図2は一見すると一般的なIV特性図のようですが、横軸は比活性を示しています。通常のIV特性図の横軸は電流密度(A/cm2)で表しますが(連載第3回参照)、ここの図では次の式により電流密度から比活性の数値に変換してプロットしています。
(1)電流密度(A/cm2-電極)×Pt目付量(mg-Pt/cm2-電極)×ECSA値(cm2-Pt/mg-Pt)=比活性(A/cm2-Pt)
「cm2-電極」と表しているのは、見掛けの電極面積です。単位面積当たりに含まれているPt触媒量が「Pt目付量(mg-Pt/cm2-電極)」となります。
前回の記事で説明した通り、電流密度が大きくなると濃度過電圧が大きくなります。従って、触媒自体の活性を比較するには、濃度過電圧がほとんど現れない領域で比較するのが合理的です。一般的には電圧が0.9Vの時の電流値で活性を比較することが多いです。比較しやすいように図2の0.9Vの部分に青線を引いています。
図2から分かる通り、Pt合金触媒の活性がPt単独触媒よりも大幅に向上しています(横軸は対数表示となっていることに注意)。この図のデータは、実際にMEAを作成して単セルの形態で測定した時のものです。PAFCの場合と同様、PEFCの運転条件下でもPt合金触媒がPt単独触媒よりも活性が高いことが理解できます。
3.Pt触媒の活性が高い理由
PEFCの電極触媒には活性の高いPtが適用されてきたことは既に説明してきました。それではなぜPtが他の元素よりも活性が高いのか、さらにPtを他元素と合金化することでなぜさらに活性が向上するのでしょうか。
この問いへの答えは非常に難しく、現在でも完全に解明できていないと言って良いかと思います。ただし、活性向上の理由を探ることで今後さらに高活性な触媒が開発される可能性があります。世界中の研究者は、これまでにさまざまな観点で研究を行ってきています。
ここでは、計算化学の発展とともにPt/Pt合金触媒の高活性の理由が少しずつ解明されてきている一端を紹介していきます。計算化学自体は一般の方にはなじみがなく、本質的な内容は難解です(筆者にとっても同様)。なるべく平易にイメージしやすく解説してみようと思います。
まず初めに、Ptが他の元素と比べてなぜ活性が高いのか、その理由を調べた研究の1例として図3を見てみます[参考資料3]。ここではPt、Au、Niの3種類の元素について、酸素還元反応が進むときの自由エネルギー変化を計算した結果を示しています。
図3 Pt、Au、Ni上での平衡電位U0=1.23Vにおける酸素還元の自由エネルギー図[クリックで拡大] 出所:J. K. Norskov, J. Rossmeisl, A. Logadottir, L. Lindqvist, et al., Origin of the Overpotential for Oxygen Reduction at a Fuel-Cell Cathode, J. Phys. Chem. B 2004, 108, 17886-17892
前回の記事にある通り、酸素還元反応が進むには、まず酸素分子がPt表面に吸着する必要があります。その後、さまざまな素反応を経由して最終的に水へと変化します。
図3の横軸は反応の進行を表し、左端の酸素分子(O2)が途中の反応中間体(O*、HO*)を経由して(*は吸着状態を示す)、右端の水(H2O)へと変化していきます。一方、縦軸は自由エネルギーを表しており、反応が進むにつれて自由エネルギーが低下するほど、その反応は自然に進みやすいことを意味します。
ただし、途中で自由エネルギーが大きく上昇する段階があると、その反応は進みにくくなります。このような最も進みにくい反応段階(専門用語で『律速段階』とよぶ)が、触媒の活性を左右します。図3を見ると、Auでは酸素が表面に吸着した後の自由エネルギーが高く、酸素を十分に吸着できません。つまり、そもそも酸素が吸着しにくいということは、酸素還元反応が進みにくいということになります。
一方、Niでは逆に酸素(O*)やHO*が非常に安定に吸着し、自由エネルギーが大きく低下しています。これは酸素との結び付きが非常に強いことを意味し、一度吸着した反応中間体が表面から離れにくくなるため、後続の反応が進みにくくなります。
これに対してPtでは、酸素や反応中間体との結合力が強すぎず弱すぎもしないため、各反応段階の自由エネルギー変化が比較的小さくなっています。その結果、反応全体が滑らかに進み、高い活性を示すと考えられます。
図3で留意したいのは、自由エネルギーが低いこと自体が重要なのではなく、反応の進行途中に大きな上り坂(自由エネルギーの増加)がないことが、高い触媒活性の要因として重要となります。
以上の観点で、各種元素について酸素還元活性を酸素結合エネルギーに対してプロットしたものが図4になります。酸素結合エネルギー変化に対して酸素還元活性が火山型に並んでいて、PtやPdなどの貴金属元素が頂点に位置しています。
表中のΔE0という値が理解しにくいと思いますが、これは酸素の結合力を示す指標で、横軸の右(プラス側)に行くほど酸素の結合力が弱くなると捉えてください。逆に左(マイナス側)に行くほど酸素が強く結合します。
図4 酸素の結合エネルギーに対してプロットした酸素還元活性の傾向[クリックで拡大] 出所:J. K. Norskov, J. Rossmeisl, A. Logadottir, L. Lindqvist, et al., Origin of the Overpotential for Oxygen Reduction at a Fuel-Cell Cathode, J. Phys. Chem. B 2004, 108, 17886-17892
この図から分かることは、酸素が触媒表面に強すぎも弱すぎもしないような吸着状態になることが重要だということです。この結果を示した論文ではさらに、反応中間体のOHの結合エネルギーにも着目しています。結果として、OとOHの結合エネルギーは線形関係にあり、両者が大きすぎず弱すぎずの値を示すPtの活性が頂点に位置していることも示されました。
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