“デジタル魚拓”を生きたデータに、3Dスキャン後に待つCAD化の壁:リバースエンジニアリングの今を考える【後編】(2/2 ページ)
3Dスキャナーの普及によって、現物を容易にデータ化できる時代になった。しかし、産業用途で本当に使えるリバースエンジニアリングを実現するには、単に形状をスキャンするだけでなく、得られたデータを設計/製造で活用できるCADデータへと変換するプロセスが欠かせない。本特集では前後編の2回にわたり、リバースエンジニアリングの基礎から実務までを解説する。後編となる今回は、スキャンデータがそのままでは使いにくい理由と、設計意図を踏まえたCAD化の考え方を取り上げる。
4.CAD化は簡単にできるのか――求められる「並走」の技術
「ボタン一つで自動的にきれいなソリッドデータに変換してくれるAI(人工知能)やソフトはないの?」と思われるかもしれません。結論から言うと、AIや専用ソフトによる自動化は確かに進んでいますが、設計意図まで正確に反映したCADモデルを完全自動で作成することは、依然として困難です。
自動で平面/円筒/穴などを認識し、ある程度のCAD化まで支援できるソフトもあります。ただし、最終的な設計意図の判断やモデルの完成には、人の知識と経験が欠かせません。
製品の機能や組み立ての関係を考慮し、どこを基準(データム)にして、どこに公差を設定するかを判断するには、高度な「設計/製造の知識」が不可欠だからです。
リバースエンジニアリングは、単なるデータのコンバート(変換)作業ではありません。
例えば、当社(モールドテック)でも、さまざまな業界でリバースエンジニアリングの実績がありますが、単に預かった現物をスキャンしてデータを出力するだけではなく、
- この部品はどこに取り付けられるのか?
- 次回のロットでは、どこの強度を上げたいのか?
といった対話をクライアントと徹底的に重ねます。スキャンデータや現物の状態、ヒアリング内容を基に、「本来の設計意図」を推定し、「将来の設計変更や改良につながるポイント」を見抜くことで、最適なCADデータへと落とし込むことができるのです。
リバースエンジニアリングの真の価値は、最新のスキャナーという“道具”のスペックではなく、データの裏側にある“モノづくりの文脈を読み解くエンジニアの目”にこそあると言えます。
まとめ:データ処理の本質を知り、開発を加速させよう
前後編の2回にわたり、3Dスキャンからリバースエンジニアリングのデータ処理までを解説してきました。以下にポイントをまとめます。
- スキャンデータは、そのままでは一般的なCADのパラメトリック編集には適さない
- 設計/製造に活用するには、多くの場合、サーフェイスやソリッドへの変換が必要
- 自動変換だけでなく、設計意図をくみ取った「編集可能なCADモデル」の構築が不可欠
- 真のリバースエンジニアリングには、設計/製造に対する造詣が必要
これからリバースエンジニアリングに取り組む方は、ぜひ「スキャンした先にあるデータ処理」を見据えて、最適な機種選定、プロセスやパートナー選びを検討してみてください。会社に眠る図面のない資産や、職人のノウハウが、デジタルの力で最先端の“生きたデータ”としてよみがえるはずです。
著者プロフィール:
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。株式会社モールドテック 代表取締役(2代目)。『作りたい』を『作れる』にする設計屋としてデザインと設計を軸に、アイデアや現品に基づくデータ製作から製造手配まで、製品開発全体のディレクションを行っている。文房具好きが高じて立ち上げた町工場参加型プロダクトブランド『factionery』では「第27回 日本文具大賞 機能部門 優秀賞」を受賞している。
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