設備は“何のため”に導入するか、元トヨタ生技が食品工場で抱いた違和感:元トヨタ生技が見た食品工場のなぜ(3)(2/2 ページ)
本連載は、トヨタ自動車で16年間、生産技術/現場改善に携わった筆者が、食品工場で感じる「自動車工場では当たり前なのに、食品工場にはないこと」を軸に、現場の生産性などに悩む食品製造業の経営者に向けて“問い”を投げかけ、改善のヒントを探ります。最終回となる今回は、食品工場を訪れた筆者が抱いた違和感と、それに対する提案を紹介します。
提案1:変化に対応する生産
改めてだが、現在は物余りの時代である。コンビニエンスストアの棚の商品は頻繁に変わるし、売れていた商品がすぐに売れなくなるのはよくあるケースだ。だから変えられること、やめられることが強みになる。
ここで誤解しないでほしいのは、大量生産そのものを否定しているのではないということだ。売れ続ける定番を安く大量に作るのは正しい。問題は、需要が読めない商品まで一律に大量生産前提で設備を組んでしまうことにある。
そこで、必要数を100とし、さらにそれを分けて考える。ABC分析を行い、量の出るAグループは現状の設備を生かし、需要の小さいCグループや需要の読めない新商品を手加工ラインで始めるという提案だ。
ラッピングならコンベヤー式ではなくハンドラップ、切断なら治具や手による切断でよい。家庭用の道具でも十分に使える。私の事例では食品ではないが、異形の少量生産品を切る際に家庭用の工具で間に合わせたことがある。食品も同じだ。
これは「設備に弱くなれ」という話ではない。むしろ逆である。
手や治具で試行錯誤し、売れるか、どんな設備が要るか、何にムダがあるかを徹底的に検証する。その過程で初めて、自社にとって必要な仕様が見えてくる。それを言語化し、量が増えた段階で設備導入につなげる。いつ自動化し、いつ自動化しないかを自分で決められること。これこそが、違和感で述べた技術力の正体である。
また分けることで商品ごとの収支も判断できるようになる。連載第2回で書いた話につながるのだ。
提案2:人材育成
月並みではあるが、ここが最後の差別化の源泉になると思っている。メーカーと対等に会話ができる人材がいなければ、設備の判断は相手任せになり、先ほどの一本道はそもそも始まらない。
私が顧客に勧めているのは、改善会の実施である。月1回でも週1回でも、皆で手を動かす時間を作り、「失敗させる」環境を整備する。ただし、ここで必ず守ってほしいのが、改善の方向性を定めることだ。これを間違えると、半年程度で重箱の隅をつつく改善になり、活動自体が立ち消えになる。
ではどこを向くか。私はリードタイムの短縮を軸に据えることを勧めている。
なぜリードタイムなのか。これを縮めようとすると、自然と小ロット化が進み、工程のつなぎや停滞があぶり出される。すると、作りすぎと在庫が減っていく。違和感で述べた大量生産の問題に、最短で効く一本の物差しなのだ。
歩留まりやコストの改善は、その結果として後から付いてくる。そして、リードタイムゼロでモノづくりをしている工場はない。つまり、改善には終わりがない。だからこそ、人が育ち続ける場になるのだ。
なお、より長期の構想として、地元の高専や工業高校とのコラボも考えている。機械/電気系の知識を持つ学生は、食品工場が求める「設備を理解できる人材」の素養がある。少量ラインの検討に学生を巻き込めば、社内に「設備を語れる人間」が育ち始めるはずだ。
これは私もまだ実績がなく、現時点ではアイデアの段階である。もし一緒に挑戦していただける会社があれば、私も協力して事例を作らせていただきたい。
まとめ
ここまで、利益を軸に話を進めてきた。最後に、その利益を生むのは誰かという話で締めたい。
設備/ロボット/IT/AI(人工知能)が何であっても、それを選び、使い、改善するのは人である。人にしか付加価値は付かない。だからこそ、小さく作って速く流す生産も、リードタイムを軸にした改善会も、突き詰めれば全て人を育てるための手段なのだ。変化できる人材さえ育てば、必要な設備は後からついてくるし、利益も後からついてくる。
ぜひ一度、「我が社は大量生産以外に選択肢はないのか」と問い直してほしい。小さく作る生産を考え、その過程を通して人を育てる。遠回りに見えて、これが最も確実に利益へ近づく道だと私は思う。
以上、3回にわたって元自動車メーカー社員から見た食品の「なぜ」を書かせてもらった。まだ独立して3年で、関わった食品会社も10社程度であり、青臭い話と思われた方もいるだろう。それでも、革新とは掛け算で起きるものではないだろうか。
お互いのいいところをまねして、消化して、やってみる。とても大変だが、それが未来を作ると信じている。何も自動車業界が全て正しいとは思っていない。各業界が学び合うきっかけになれば幸いである。
私自身、日本の製造業のためにまだまだ尽力したい。現場を見せていただける方、議論していただける方がいれば、全国どこへでも行くつもりだ。業界の垣根を越えて学び合うことこそが、日本のモノづくりを強くすると信じている。
最後にトヨタグループ創業者、豊田佐吉氏の言葉を引いて、3回のコラムの締めとしたい。
「障子を開けてみよ、外は広いぞ」
(完)
著者プロフィール
田代勝良(たしろ かつよし)
工場改善サービス株式会社 代表取締役
トヨタ自動車にて約16年間、生産技術・現場改善に従事。独立後は「社長より先に作業着を汚すコンサルタント」として中小製造業を中心にトヨタ生産方式ベースの現場改善コンサルティングを提供。中部産業連盟・日本能率協会などでのセミナー登壇実績多数。
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