検索
連載

自動車工場で聞こえるのに、食品工場では聞こえない音〜工場の主人公は誰か元トヨタ生技が見た食品工場のなぜ(1)(1/3 ページ)

本連載は、トヨタ自動車で16年間、生産技術/現場改善に携わった筆者が、食品工場で感じる「自動車工場では当たり前なのに、食品工場にはないこと」を軸に、現場の生産性などに悩む食品製造業の経営者に向けて“問い”を投げかけ、改善のヒントを探ります。今回の問いは「あなたの工場に今日、止まる音は聞こえましたか」。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 食品製造業は今、大きな転換点に立っている。少子化/人手不足/消費者ニーズの多様化が加速する中で、「大量に作れば売れる」時代は終わりを告げつつある。

 しかし多くの食品工場では、今も「稼働率至上主義」「できるだけ作る」「設備メーカー任せ」という慣行が続いている。これらは一見合理的に見えるが、実は人の力を弱め、変化への対応力を奪っている

 本連載は、トヨタ自動車で生産技術/現場改善の経験を持つ筆者が、食品工場を訪れるたびに感じる「自動車工場では当たり前なのに、食品工場にはないこと」を軸に、経営者に向けて問いを投げかける。第1回は、“自動車工場で聞こえるのに、食品工場では聞こえない音”について取り上げる。

トヨタ自動車のエンジニアが気付いたこと

 私は、トヨタ自動車の車両工場で改善をしていたエンジニアだ。16年間、主に自動車組立工場で品質管理、新車立ち上げ、レイアウト工事などを担当していた。そして、40歳の時にトヨタ自動車を辞めた。

 きっかけは2つある。

 1つ目は購入部品担当のとき、苦しい状況で経営する中小企業に、社員のままでは何もしてあげられなかったことだ。歯がゆい思いをした。

 2つ目は、トヨタ自動車の歴史を改めて調べたときだ。この巨大企業は、もともとは私と同世代の技術者が立ち上げたベンチャーだった。社内の創業記念館で、その事実が強烈に突き刺さり、安定を捨てられない自分が恥ずかしくなった。挑戦せずにこの人生を終えられない。飛び出して自分のスキルを世の中に役立てたい。そう思って始めた工場改善の仕事である。

 当初は自動車関連の工場からの依頼が中心になると思っていた。ところが意外にも、食品工場からのニーズが多かった。モノが流れるところであれば、改善の原理原則は変わらない。そう確信しながら食品工場に通い始めて、2年ほどたったころのことだ。あることに気がついた。

 音が聞こえない。

 正確に言えば、「呼び出しの音」がないのだ。自動車工場では設備が止まると、班長を呼ぶ電子音が鳴り響く。当たり前のように鳴り響くその音が、食品工場にはない。最初は1社だけかと思った。しかし何社訪問しても、やはりその音は聞こえなかった。この違いはいったい何を意味するのか。それが、この記事を書こうと思ったきっかけである。

自動車工場の「当たり前」とは

 自動車関連の工場に入ると、電子音が鳴り響いている。どこかで設備が止まった、あるいは作業者が助けを求めている。その情報はアンドン(行灯)と呼ばれる電光掲示板に表示される。

 天井からつるされたその掲示板には工程の一覧が記されており、異常が発生した箇所が点灯、あるいは点滅する。目で見て、耳で聞いて、異常をすぐに把握できる仕組みだ。

アンドン(行灯)のイメージ
アンドン(行灯)のイメージ[クリックで拡大]

 なぜこのアンドンがあるのか。それはトヨタ自動車の「異常があったら止める」という、根本的な思想に由来する。

 トヨタ自動車はもともと織機メーカーだった。創業者の豊田佐吉が、電気もセンサーもない時代に「縦糸が切れたら自動で止まる織機」を発明したのがその始まりだ。これによって、かつては一台一台を見張るしかなかった作業者が、一気に約40台もの織機を管理できるようになった。人が設備を管理するという主従関係が初めて生まれた瞬間だ。

 この思想が、現代のトヨタ生産方式にも脈々と受け継がれている。異常があったら止める。止まったら原因を究明する。問題を一つ一つ解決する。これが「改善活動のトリガー」になっているのだ。よく言われる「なぜなぜ分析」も、この「止めて考える」という環境があってこそ本当に機能する。

 異常を放置しない。流さない。止めて、考えて、二度と起きないようにする。その積み重ねが、不良が出ない工場、やり直しが発生しない工場をつくっていく。止めることは損失ではなく、改善のトリガーなのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る