要件定義の停滞を具体像で突破 開発を着実に推し進めるプロトタイピングの実践:「直感」と「論理」を使い分ける実践デザイン論(1)(2/3 ページ)
新しい価値を持つ製品開発では、要件定義の段階で議論が停滞しがちだ。本連載では、83Designが実践する「直感」と「論理」を使い分けるデザイン手法を紹介する。第1回は、具体像を用いたプロトタイピングによって、上流工程の膠着(こうちゃく)状態を突破する方法を取り上げる。
3.「具体像」は、議論を引き出すための能動的なコンサルティング
基本的にプロジェクトはSTAIRS UPによる着実な積み上げによって進んでいきますが、前例のない新規開発などでは、未確定要素が多すぎて「論理や数字だけでは打破できない膠着(こうちゃく)状態」が必ず訪れます。
そのとき、私たちは限定的に、完璧な要件定義を待たず、取りあえずの仮説を形にして必要な情報を引き出します。こうした「仮説を先に置き、そこから必要な情報を探る」アプローチ(アブダクション=仮説的推論)を活用するのです。直感でアイデアを一気に未来の姿へと飛躍させ、具体的な形として展開するこのアプローチを、当社では「JUMP(ジャンプ)」と呼んでいます。
このJUMPは、制約を無視した「絵に描いた餅」ではありません。「もしビジネスと技術の要件を極端に振ったとしたら、こういう姿や構造になるはずだ」という、論理のギャップを埋めるための意図的な跳躍です。
足りない情報がそろうのを待つのではなく、直感(JUMP)で飛躍させた具体像を投下し、そこから得た事実を基に再び論理(STAIRS UP)で構造化するのです。この一連の動作が、議論の収束と手戻り削減という強力なメリットを現場にもたらします。
言葉だけの議論では、参加者一人一人の頭の中に異なる「解釈」が生まれます。しかし、そこに1つ、制約を加味した「形」があるだけで状況は一変します。形という「共通の基準(レファレンス)」が目の前に提示されることで、チーム全体の認識がそろい、「このサイズだとバッテリーが入らない」「この位置なら配置できる」という、具体的かつ建設的な「ツッコミ」が引き出せるようになるのです。
4.【実践】「何を確かめるべきか」から逆算する解像度のコントロール
「取りあえず形にしてみよう」といっても、ハイクオリティーなイメージ画像を作るべきか、メモ帳にパパっと描いた簡易スケッチで十分なのか、それとも模型にして触れるようにしなければいけないのか――。「何をどう確かめるべきか分からない」と悩む方は多いでしょう。
プロトタイプは「完成予想図」ではなく、あくまで「会議でのコミュニケーションを成立させ、仮説を検証するためのツール」です。従って、その解像度は「論点を説明するのに必要な解像度」と「対話する相手の解釈力(想像力)」に合わせて柔軟に調整する必要があります。
相手の「想像力」に適合させる
- 抽象的なスケッチやモノクロの3Dモデルで十分な場合:
提示された「形」から、本質的な構造や体験を脳内で補完できるメンバー(現場の設計エンジニアなど)が相手であれば、あえて解像度を抑えることで、スピードを優先しつつ議論の論点を絞り込むことができます。 - 高精細なレンダリングや塗装まで施した試作が必要な場合:
「実物に近い状態」でないと価値やサイズ感を判断しにくいステークホルダー(経営層や他部門のチェッカーなど)が相手であれば、徹底的に質感を再現することで、誤解のない確実な合意形成を図ります。
「前提の共有」という最重要ステップ
最も大切なのは、形を提示する前に、「今回は、この論点(例:装着感)を確認するためのツールであり、それ以外(例:色やロゴ)は未定である」という前提を言葉やテキストで事前に合意しておくことです。この「翻訳機としての設定」を怠ると、プロトタイプはかえって混乱を招く原因になりかねません。
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