「稼ぐ在庫」と「死に資産」の境界線 キャッシュを生み出す在庫設計4つの鉄則:「稼ぐサプライチェーン」の作り方(2)(4/4 ページ)
在庫は減らすものではなく、設計するもの――。本連載では、実践的な知見をもとに「稼ぐサプライチェーン」の構築法を解き明かします。第2回となる今回は、在庫を「形を変えたキャッシュ」として捉えるB/S視点からさらに踏み込み、会社のキャッシュを最大化する「在庫設計」の4つの実践ポイントと、稼ぐためのマネジメント手法を取り上げます。
在庫は「組織の鏡」である
最後にお伝えしたいのは、在庫問題は、どれほど優れたシステムを導入しても、それだけでは解決しないということです。なぜなら、在庫とは「現場の不安」と「部門間の利害」が積み上がった結果でもあるからです。
需要予測システムを導入しても、最終的な発注判断をするのは人間です。S&OPツールを導入しても、在庫リスクを許容するかどうかを決めるのは経営です。倉庫管理システムを整えても、終売や廃棄を決められなければ、在庫は残り続けます。
在庫問題とは、単なるオペレーションの問題ではありません。意思決定の問題であり、組織設計の問題なのです。企業内では各部門が異なるKPIで動いています。この部分最適の追求が、在庫マネジメントにおいてひずみを生み出します。
それぞれの部門は、自分たちの立場では正しいことを言っています。しかし、それぞれの正しさが、会社全体の最適解と一致するとは限りません。在庫マネジメントで難しいのは、部門ごとの正しさを否定することではありません。それらを調整し、「会社としてどのリスクを許容するのか」を決めることです。これを曖昧にしたままでは、在庫は増え続けるか、逆に減らしすぎて欠品を招くかのどちらかになります。会社に積み上がった在庫の山は、単なる需要予測ミスの結果ではありません。多くの場合、意思決定ルールが存在しないことの裏返しです。
- どのタイミングで在庫を持つと決めたのか
- その判断は、どこで誰が決めたのか
- どのタイミングで終売を判断するのか
- 誰が売れ残った在庫を処分すると決めるのか
これらが曖昧なままでは、在庫は自然に増えていきます。在庫には、需要が読めない不安、納期を守れない不安、顧客を失う不安が反映されています。だからこそ、在庫は「組織の不安」が形になったものだと言えます。在庫の状態を見れば、その企業の経営レベルが分かると言っても過言ではありません。だから私は、在庫は「組織の鏡」だと考えています。
おわりに:「説明できない在庫」をなくす
在庫そのものが悪いわけではありません。問題なのは、なぜ持つのか、いつキャッシュ化するのかを説明できない在庫です。目指すべきは、在庫を一律に減らすことではなく、説明できない在庫をなくし、稼ぐための在庫に資金を振り向けることです。そのためには、次の問いに答えられる必要があります。
なぜ、その在庫を持つのか。
いつ、どのようにキャッシュ化するのか。
その判断は、3つの視点(P/L、B/S、キャッシュフロー)のバランスを見たものか。
サプライチェーン担当者は、単なる「モノの管理者」ではありません。企業のキャッシュの回転をつかさどる、経営の一翼を担う存在です。次回の最終回では、これまでのB/S視点と在庫戦略を統合し、激変する環境下で勝ち残るための「稼ぐサプライチェーン」の全体設計について考えます。(次回に続く)
著者プロフィール
齋藤 弘晃(さいとう ひろあき)
早稲田大学卒業後、ポーラにてSCM・需要予測に従事。その後、PwCコンサルティングにて自動車部品メーカーの物流システム導入をリード。ACROではサプライチェーン部門責任者として、S&OPプロセスの導入や需給管理の高度化を推進し、在庫と財務を連動させたオペレーション改善に取り組む。特に、需要変動の大きいブランドビジネスで培った需給最適化の知見を生かした、現場実装型の改善を強みとする。
現在は、自身で経営コンサルティングを行う傍ら、プロ人材サービス「ウィズプロ」の登録プロ人材として、製造業を中心に戦略立案から現場改善、DX支援まで一貫して支援している。
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