DXで必須の「標準」とは誰のもの? Fit to Standardの意識のズレが招く停滞:DX Compass:標準化のわなと現場の知恵(1)(1/2 ページ)
実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説する本連載。第1回となる今回は、ERP導入の鍵といわれる「Fit to Standard」の理想と現実について考察する。
製造業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、避けては通れない課題となっています。しかし、多岐にわたる業務にデジタル技術を適用し効果を生み出していくためには、各社各様のストーリーがあり、一筋縄ではいかない現実が存在します。
本連載では、実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説していきます。第1回となる今回は、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)導入の鍵といわれる「F2S(Fit to Standard)」の理想と現実について考えます。
「業務をシステムに合わせる」という理想と現実
DXに限らず多くのシステムで近年主流となりつつあるのが「F2S(Fit to Standard)」という考え方です。従来の日本のシステム導入は、業務にシステムを合わせる形でカスタム開発を多く扱うのが当たり前となっていました。F2Sはそれとは逆に「業務をシステムの標準(Standard)に合わせる」考え方です。DXの基盤となるERPシステムは特にカスタマイズが多かった領域ですが、最近はこれらのシステムもできる限りシステムに合わせるやり方が増えています。
F2Sには、以下のようなメリットがあります。
- ガバナンスの強化:業務が標準化され、属人性が排除される
- コストと期間の削減:開発が最小限で済むため、導入のコストを抑え、期間を短縮できる
- メンテナンス性の向上:不具合が少なく、アップデートやマイグレーションにも対応しやすくなる
- ナレッジの汎用化:システム仕様の属人化を防ぎ、運用対応や担当者の引き継ぎも容易になる
- 俊敏性:市場の変化に合わせて新機能を追加する際、基盤が標準的なので拡張が容易になる
筆者が携わるERPの一部をなすSCM(サプライチェーン管理、生産/販売/原価管理)システム「mcframe」は、カスタマイズができるパッケージということが特徴の一つとなっていました。しかし、最近ではこのF2Sによる導入が増えています。
F2Sによるシステム導入は、先述したように多くのメリットがあります。ただ、「いいこと尽くし」に見えるこの手法ですが、最適な形で進めなければ、現場では多くの困難に直面することになります。
Fit to Standardの目指す先がバラバラ
筆者が運営するユーザー会(mcframe Users Group: MCUG)などで、製造業の皆さまとERP導入におけるF2Sの課題を議論した際、「標準(Standard)」に対する理解が驚くほど多様だったことが印象に残っています。
F2Sにおける「Standard(標準)とは何か」という問いに対し、パッケージベンダーやインテグレーターは、「Standard(標準)とはパッケージシステムそのもの(=パッケージシステムの標準機能)のこと」だと思って話をしています。しかし、ユーザー企業側でそのように考えているのはシステム部門や企画部門の一部の人だけです。
ユーザー部門の認識におけるStandard(標準)は、まず「業界標準」であり、次に「自社の業務標準」、そして「自部門の標準」です。中には「私の標準」という冗談とも本気とも判断ができないような標準(?)もありました。
人は、自分の見たいように物事を受け取るものです。「自社のやり方に合わせてくれるはずだ」という意識や、「業界横断的な標準など存在しない」という前提があると、議論はカスタマイズ開発へと流れてしまいます。これでは、先述したF2Sのメリットは失われてしまいます。F2Sの進め方が総意になっているとしても、「標準」に対する認識とその範囲についてはあらためて考慮する必要があります。皆が同じ気持ちで同じ方向を向いていると過信するのは禁物です。
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