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「1回は大丈夫なのに、なぜ壊れる?」――椅子の疲労破壊をCAEで読むCAEで逆引きするトラブル診断の思考法(2)(2/3 ページ)

連載「CAEで逆引きするトラブル診断の思考法」では、身近な製品トラブルを起点に、「なぜ壊れたのか」を逆算して読み解くCAEの思考プロセスを解説する。第2回では、椅子のリコール事例を題材に、「1回は壊れないのに、なぜ使い続けると壊れるのか」という疲労破壊のメカニズムを、CAEの視点から読み解く。

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S-N曲線:繰り返し回数と応力の関係を「見える化」する

 疲労設計の核心となる概念が「S-N曲線(エスエヌ曲線)」だ。縦軸に応力振幅(S:Stress amplitude)、横軸に破断に至るまでの繰り返し回数(N:Number of cycles)を取ったグラフで、「ある応力レベルで何回繰り返すと破断するか」を示している(図2)。

S-N曲線の模式図
図2 S-N曲線の模式図。縦軸:応力振幅(MPa)、横軸:繰り返し回数N(対数スケール)。鉄鋼材料の曲線(疲労限度あり)と、アルミ合金/樹脂材料の曲線(疲労限度なし)を対比して描いた。「疲労限度」「高サイクル疲労領域」「低サイクル疲労領域」を注記している(※筆者作成)[クリックで拡大]

 S-N曲線には、2つの重要なポイントがある。1つ目は、応力振幅が大きいほど、少ない繰り返し回数で破断に至ることだ。2つ目は、多くの鉄鋼材料には「疲労限度」と呼ばれる応力の下限が存在し、それ以下の振幅であれば、理論上は無限回の繰り返しに耐えられることだ(ただし、アルミ合金や樹脂材料は、明確な疲労限度を持たない場合が多いため注意が必要)。

 設計者はこの曲線を用いて、「1日何回の荷重を受けるのか」「製品寿命を何年に設定するのか」を逆算し、許容応力を決めていく。ここで見落とされやすいのが、使用頻度の想定だ。例えば、オフィスで1日50回座り立ちする椅子と、家庭で1日5回しか使わない椅子では、10年後の累積繰り返し回数は10倍以上異なる。同じ材料/同じ板厚であっても、使用環境によって疲労寿命は大きく変わるのだ。

CAEで疲労を読み解く――思考の手順

 CAEを使った疲労解析の基本的な流れは、まず通常の静解析(または動解析)で各部位に発生する応力を求めるところから始まる。次に、その応力を応力振幅へ変換し、使用する材料のS-N曲線と比較して、「この応力振幅では何回で破断に至るのか(疲労寿命)」を求める。

 さらに、実使用を想定した荷重スペクトル(荷重の大きさと繰り返し回数の組み合わせ)を与え、「疲労損傷度」を累積していく。この考え方は「マイナー則(線形損傷則)」と呼ばれ、疲労損傷度の合計が1を超えた時点で、その部位は破断すると判定される。

 椅子の応力コンター図を想像してほしい。脚そのものは比較的低応力(コンター上では青〜緑)に収まることが多い。一方、鮮やかな赤〜橙に染まりやすいのは、脚の付け根と座面の接合部、溶接部の縁、リベット穴の周辺、そして断面が急変するリブの根元といった部位だ(図3)。静解析では「安全率2以上で問題なし」と見えた箇所でも、100万回サイクルを想定した疲労解析では危険域に入るケースは珍しくない。

き裂発生箇所の応力コンター図のイメージ
図3 き裂発生箇所の応力コンター図のイメージ。パイプ脚付き椅子を想定し、脚根元や溶接部、リブ根元が赤〜橙に染まり、脚中央部は青のままとなる様子を示す(※サンプル解析によるイメージであり、実際の製品ではありません)[クリックで拡大]

 例えば、着座荷重を繰り返し与える条件で疲労解析を行うと、特定部位において約8×105回の着座で破損に至る可能性が示される場合がある。仮にオフィス用途として、1日50回着座し、年間250日使用すると考えると、約7年でその回数に到達する計算となる。

疲労寿命を示したコンター図のイメージ
図4 疲労寿命を示したコンター図のイメージ(※サンプル解析によるイメージであり、実際の製品ではありません)[クリックで拡大]

疲労寿命を左右する「もう一つの要因」――表面状態と切り欠き係数

 S-N曲線は通常、表面を磨き上げた試験片を用いて計測される。ところが実際の製品の表面には、機械加工のツールマーク、溶接ビードの凹凸、リベット穴の縁など、応力集中の起点となる要素が無数に存在している。

 こうした影響を補正するのが、「切り欠き係数(疲労応力集中係数)」で、表面が粗いほど局所的な応力集中は強くなり、実際の疲労寿命はカタログ値より大幅に短くなる。

 つまり、同じ板厚/同じ材料であっても、加工面の粗さや形状の細部によって疲労寿命は大きく左右される。応力集中を抑えるためには、角部のRを大きくする、断面変化をなだらかにする、溶接ビードの仕上げを徹底するといった形状改善が重要になる。こうした対策は、単純な板厚増加よりも効果的な疲労対策となる場合が少なくない。

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