鉄鋼材料の各種熱処理:鉄鋼材料の基礎知識(10)(2/3 ページ)
今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第10回は、鉄鋼材料の各種熱処理について説明する。
鉄鋼材料を標準状態にする熱処理法
一般的な鉄鋼材料は、圧延や鍛造などの塑性加工が施されています。塑性加工が施されたままの材料は、組織や結晶粒が不均一な状態になっています。また硬化し、延性や靭性が乏しい状態になっています。「焼きなまし」と「焼きならし」は、そんな鉄鋼材料を標準状態にするための熱処理となります。
焼きなまし
焼きなましは、材料を所定の温度に加熱して保持した後、炉冷(ろれい)を行う熱処理法です。焼きなましにもいくつかの種類がありますが、単に焼きなましと言うと「完全焼きなまし」のことを指します。
加熱温度は、材料の種類によって異なります。亜共析鋼の場合は、A3線よりも30〜50℃程度高い温度で保持してオーステナイトに変態させた後、炉の中でゆっくり冷却します。過共析鋼の場合は、A1線よりも30〜50℃程度高い温度か、目的に応じてA1線以下の温度で保持します。
焼きなましを行うと、圧延や鍛造によってひずんだ結晶粒が回復します。不均一だった組織は均一な組織となり、共析鋼では「パーライト組織」、亜共析鋼では「フェライト+パーライト組織」、過共析鋼では「セメンタイト+パーライト組織」となります。
また焼きなましを行うと、材料内部に蓄積された応力(=残留応力)が低下し、材料が軟化します。これが焼きなましの最大の効果であり、圧延や鍛造によって硬化した材料を軟化させることで被削性や成形性を確保できます。
次に示す各種焼きなましも目的に応じて用いられます。
- 拡散焼きなまし
成分の均質化を目的とした焼きなましであり、ソーキングともいう。材料を固相線直下で長時間保持する処理を行う。リンや硫黄などの不純物や合金元素の成分的な偏り(偏析:へんせき)を解消することができる。
- 球状化焼きなまし
層状に析出したセメンタイトの球状化を目的とした焼きなまし。材料をA1線近傍で長時間加熱する処理を行う。材料が軟化して被削性が向上するため、工具鋼や軸受鋼などの硬い鋼材の切削加工前に適用される。
- 応力除去焼きなまし
残留応力の除去を目的とした焼きなまし。材料をA1線以下に加熱し、徐冷する処理を行う。やや軟化が生じるものの、組織を変化させることなく残留応力やひずみを除去することができる。
- 可鍛化焼きなまし
白鋳鉄に対し、可鍛鋳鉄の組織を得ることを目的とした焼きなまし。脱炭またはセメンタイトの黒鉛化により、可鍛鋳鉄が得られる。
焼きならし
焼きならしは、オーステナイトに変態する温度に材料を加熱して保持した後、空冷を行う熱処理法です。亜共析鋼ではA3線、過共析鋼ではAcm線よりも40〜60℃程度高い温度に保持した後、炉から取り出し、空気に触れさせて冷却(=空冷:くうれい)します。
焼きならしを行うと、圧延や鍛造によってひずんだ結晶粒が回復し、組織が均一化します。得られる組織は、焼きなまし後の組織と同じになります。ただし、焼きならしの方が冷却速度が速いため、より微細な結晶粒をもった組織となります。これにより、焼きなましよりも良好な機械的性質を得ることが可能です。
なお、焼きならしには「標準」の意味があります。焼きならしを行うと前加工の影響が取り除かれ、材料を「標準状態」にならすことから焼きならしという名称が付けられています。
鉄鋼材料を強化する熱処理法
鉄鋼材料を実用的な硬さや強度にするために用いられる熱処理法が「焼き入れ」です。焼き入れは「焼き戻し」とセットで行うことが一般的であり、焼き入れと焼き戻しの連続操作のことを「調質(ちょうしつ)」と呼ぶこともあります。
焼き入れ
焼き入れは、オーステナイトに変態する温度に材料を加熱して保持した後、急冷を行う熱処理法です。亜共析鋼ではA3線、過共析鋼ではA1線よりも30〜50℃高い温度に加熱した後、炉から取り出して水や油などの冷却媒体に漬け、一気に冷却します。
鉄鋼材料を焼き入れすると、組織が「マルテンサイト」になります。マルテンサイトは鉄鋼材料の組織の中で最も硬い組織であるため、焼き入れすると非常に硬く、強度の高い材料が得られます。炭素量が高いほど材料が硬化しますが、材料の肉厚が大きい場合には内部まで焼きが入らず、十分な硬さが得られなくなります。
冷却媒体は、材料の種類や目的に応じて使い分けられます。水を用いた「水冷(すいれい)」は冷却速度が速いため、材料が硬化しやすいですが、熱処理ひずみや焼割れが生じるリスクがあります。
油を用いた「油冷(ゆれい)」は、水冷よりもゆっくり冷却できます。得られる硬さは水冷に劣るものの、焼き入れ性がよい低合金鋼では油冷でも十分な硬さが出ます。送風機によって風を当てて冷却する「衝風(しょうふう)冷却」では、さらにゆっくり冷却できます。その他に霧状の水を用いて冷却する「噴霧(ふんむ)冷却」などもあります。
焼き戻し
焼き戻しは、材料を変態点(A1)以下の温度に加熱して保持した後、徐冷する熱処理法です。目的によって加熱温度が使い分けられますが、高温焼き戻しでは550〜650℃程度の温度に加熱します。
焼き入れ直後の材料は非常に硬く、もろい状態です。そこに焼き戻しを施すと、マルテンサイトが分解し、炭化物が析出して安定な組織となります。また材料が軟化し、材料に延性や靭性が付与されます。保持温度が高いほど、あるいは保持時間が長いほど材料の軟化が進むため、これらの熱処理条件を制御して材料の機械的性質を調整します。
工具鋼のように硬さを維持したい材料に対しては、150〜200℃で保持する低温焼き戻しが行われます。モリブデン(Mo)を含有する合金鋼などでは、焼き戻しによって残留オーステナイトが発生するため、2回以上の焼戻しが行われます。大型の鍛鋼品などでは、焼きならしのあとに焼き戻しが行われることがあります。
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