1990年代後半のものづくり(その2)〜日本での取り組み〜:ものづくりをもっと良いものへ(6)(2/2 ページ)
本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第6回は「1990年代後半のものづくり」をテーマに、日本企業における設計環境の変化や、日本と西欧の文化の違いが設計手法に与えた影響について考察する。
日本と西欧の比較
日本と西欧では文化の違いもあり、設計する上では、これを考慮する必要があると考える。以下、この点に関して私見を述べる。
設計/生産が日本国内にとどまっている限りは、日本という文化を基本にした設計のみを考えればよかった。しかしながら、現実にはグローバル化の波に押され、対応せざるを得ない状況にある。
グローバル対応の仕方には2つある。1つは、日本流のやり方を押し通すことだ。日本が得意な生産(製造)技術においては、実体がある(現物主義)ため、ある程度考え方に違いがあっても、この方法が通用する。しかしながら、設計は考え方そのものであり、考え方や文化の違いが直接影響する。日本はもともと“曖昧さ”を特徴とするだけに、こと設計に関しては、日本流のやり方を押し通すことには限界がある。
グローバル対応のもう1つの方法は、徹底的に相手国の考え方や文化に合わせることだ。ただし、設計の場合には問題がある。相手に合わせることで、設計意図が伝わらなくなるリスクだ。
これは言葉の問題と同じだ。日本語ではうまく意図を表現できるのに、英語になると思うように表現できない、といった経験は日本人であれば誰でも持っていると思う。英語の場合も、その本質を理解し、英語ならではの(日本語にはない)表現方法をマスターできれば一人前である。設計にも同じことがいえるのではないだろうか。
そこで、設計を考える前に、日本と西欧の文化比較を行ってみたい(表1)。よく言われるのは、日本は農耕民族、西欧は狩猟民族という点だ。しかし、これが本質的に日本と西欧を分けている要因なのだろうか。日本は農耕だけでなく、漁業も営んでいる。漁業は一種の狩猟ともいえる。農耕を行う人と漁業を行う人が、本質的に異なるとは考えにくい。
| 項目 | 西欧文化 | 日本文化 |
|---|---|---|
| 文化 | 狩猟民族 | 農耕民族 |
| 雇用形態 | 能力連動型年俸制 | 終身雇用、年功序列型賃金体系 |
| 組織 | フラット | ピラミッド型 |
| 決定プロセス | トップダウン | 合議制(多数決) |
| 評価 | 独自性 | 相対評価 |
| 生産の重点 | 戦略的に革新的生産 | より良いものを安く生産 |
| 支えている製品 | 航空/宇宙 | 自動車 |
| 生産システム | 自社生産 | 系列システム |
| 企業の最優先項目 | 利益 | マーケットシェア |
| 製品開発の強み | 設計技術 | 生産技術 |
| 研究 | 基礎研究 | 応用研究 |
| 該当することわざ | 先んずれば人を制す 嘘も方便 時は金なり 壁に耳あり よく勤めよく遊べ |
出る杭は打たれる 共同責任は無責任 雄弁は銀、沈黙は金 船頭多くして船山に登る 三人寄れば文殊の知恵 |
| 表1 西欧と日本の文化の比較 | ||
では、何が日本と西欧を分けているのだろうか(両者が異なることは明白)。やはり、地理的な問題が大きいと考える。西欧は、常に周囲との力関係の中で国を維持してきたため、アクティブ(能動的)にならざるを得ない。一方、日本は極東に位置し、さらに周囲を海という理想的な砦に囲まれている。従って、よほどのことがない限り外部から攻め込まれることはなく、結果としてパッシブ(受動的)になる。
上記のような文化的違いは、設計手法にも如実に表れている。図3は、別途説明する設計手法マップに、各地域の注力分野を示したものである。欧米の学会論文を分析して導き出した。
米国はトップダウン型で、あまり迷うことなく、多くの設計手法を戦略的に適用している。米国が採用している多くの製品開発の考え方や手法が、日本に端を発していることは興味深い。
また、西欧はその歴史的背景をベースに、人間系(人を介した技術伝承)と地に足の着いた設計手法の適用を行っている。
一方、日本はボトムアップ型で、個々の設計手法の適用能力は高いものの、それらを組織として戦略的に適用することには弱い。
現在、日本発の設計手法が米国で洗練された戦略的設計手法へと発展し、日本へ逆輸入されている。しかし、それをそのまま適用できるとは限らない。これらの手法は米国向けにカスタマイズされたものであり、日本で活用するには、さらに日本の文化や組織に合わせた調整が必要となる。 (次回へ続く)
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