1990年代後半のものづくり(その2)〜日本での取り組み〜:ものづくりをもっと良いものへ(6)(1/2 ページ)
本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第6回は「1990年代後半のものづくり」をテーマに、日本企業における設計環境の変化や、日本と西欧の文化の違いが設計手法に与えた影響について考察する。
企業での取り組みとして、これまでに原子力プラントや自動車開発について、その一端を紹介してきた。原子力プラントは当初、海外から技術だけでなく、構造の仕組みから寸法、材料に至るまで全てを導入し、ある意味では一種のコピー製品を開発していた。図面の寸法も、インチ表示のものをミリ表示に変換するところから始まった。ただ、導入したまま設計/製造してもトラブルが発生し、その対応に多くの時間を割いていた。
一方、自動車も、各社が戦後から開発を進め、その規模が巨大化するにつれて、自動車開発固有の変遷を経て現在に至っている。自動車開発は規模こそ大きいものの、対象製品は基本的に自動車に限定されている。
これに対し、筆者が在籍した総合電機メーカー(この言葉も今では死語かもしれない)では事情が異なっていた。今回は、このような環境の中で、どのような取り組みを行ってきたのかを中心に紹介する。
また、使用されている設計ツールの大半が西欧発である点も興味深い。日本と西欧では文化的背景が異なり、その違いは、使用する設計ツールにも影響している。
注:「モノ」「もの」の表記について、本稿では「モノ:生産要素または経営資源といった手段」「もの:生産活動により付加価値を持った成果物」と使い分けて表記しています。また、「人」「ヒト」「ひと」の表記については「人:一般的」「ヒト:生物学的」「ひと:人間的(ものとの対比)」と使い分けています。
企業での取り組み
企業では、設計そのものというより、当時現実味を帯び始めていたCAD/CAEをどう活用するかについて議論していた。
CAD/CAEの開発から導入へ
CAD/CAEの仕組み自体は公知であり、自社で開発し、販売まで行っている企業も多かった。東芝でも、製品ごとに研究者がCAEを開発し、自ら使用しているケースがあった。余分なGUIも必要なく、何より開発者が社内にいることは心強かった。
しかし、ユーザーが増えるにつれて状況は変わっていった。開発した研究者にとってCAE開発は本来業務ではないため、次第に商用ソフトの導入が進んでいった。
一方、CADについては、使用していたのは主に事業部の技術者であり、研究所では依然として手で製造図面を描き、それを直接、試作部門へ手渡ししていた。従って、製造部門側で商用ソフト(当初は2D、順次3Dへ)を使用していたと考えられる。
CAD/CAEの標準化
社内で商用のCAD/CAEが普及し始めると、ソフトベンダーが各事業部に直接売り込むようになり、社内ではありとあらゆるソフトが使用されることになった。現在では淘汰(とうた)され、その数はかなり絞り込まれているが、当時は相当数のCAD/CAEが社内で使用される事態となっていた。
一方、本社部門としては、ある程度ソフトの数を絞り込んだ方がよいのではないかということで、本社部門(研究所もその一員として)で各ソフトの評価を行い、推奨CAD/CAEをまとめ、各事業部にあくまで“推奨”という形で展開した。
しかしながら、推奨したソフトのベンダーがつぶれてしまったり、上位ベンダーに吸収されたりして、次第に推奨CAD/CAEそのものの意味は薄れていった。
ただ、この活動を通じて世界のCAEベンダーを直接訪問し、開発技術者と議論したり、各社の方針を直接聞いたりできたことは良い経験であった。
製品の種類と適正な設計法
既に述べたように、総合電機メーカーではさまざまな製品を扱っていた。そこで個人的な興味として、各製品を何らかの手段で比較してみた。その一例を図1に示す。
ここでは、横軸に開発規模(開発費の大小)、縦軸に大量生産/少量生産を取り、この2次元マップ上に各製品をプロットした。自動車、建設機械、航空機器は当社製品ではなく、推測でプロットしている。
この図から分かるのは、右上が自動車、半導体といったリピート製品、左下がロボットに代表される新規製品、右下が原子力プラント、宇宙機器といった長期開発製品、左上がノートPC、家電に代表される短期開発製品となっている点だ。
そして、右上のリピート製品がBetter設計[設計]、右下の長期開発製品がMust設計[デザイン]、左上の短期開発製品がDelight設計[デザイン]に、結果的に対応している。
例えば、宇宙機器では重量、コスト、性能の制約の中で、安全/安心を具体化するデザインが必要となる。また、家電においては、いかに顧客の琴線を捉えるかが重要である。
図1を設計の視点で分類、表現したものを図2に示す。Better設計が「設計」、Must設計とDelight設計が「デザイン」に相当する。
Must設計では、トラブルフリーが目標となる。それを達成する手順は無限にあり、その中から現時点で最善の解を導き出すのが、Must設計におけるデザインだ。
また、Delight設計は、最終的には人がDelightと感じる製品を創ることにある。千差万別の人の中からターゲットを設定し、その人がDelightと感じる(相応のお金を出す価値がある)製品を考えることは、まさにデザインといえる。
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