空前のAIブーム!「猫も杓子もAI」な現状は今後も続くのか?【前編】:武田一城の「製品セキュリティ」進化論(5)(2/2 ページ)
近年「製品セキュリティ」と呼ばれ始めたセキュリティの新分野に関する事象を紹介し考察する本連載。今回は、連載テーマである「製品セキュリティ」から多少は逸脱するが、IT革命以来の世界を革新するものと世論に目されているAIのこれまでと今後について述べる。
【第1期】探索と推論の時代(1950年代後半〜1960年代)
AIの黎明(れいめい)期である第1期は、「パズルを解く」ように特定のルールに基づいた知能の再現が中心であったといわれる。コンピュータに迷路の解き方や定理の証明をさせる「探索と推論」が注目を集め、「数年以内に人間と同等の知能が実現する」という楽観論が支配した。
しかし、当時のAIはあらかじめ定義されたルールの中でしか動けず、現実世界の複雑な問題(トイプロブレムの壁)にぶち当たり、歴史上初の「AI冬の時代」となった。
【第2期】知識表現の時代(1980年代)
第1期のブームから約20年を経た1980年代に入ると、コンピュータに「知識」を教え込む「エキスパートシステム」と呼ばれるものが台頭した。専門家の知識を「もし〜ならば〜(If-Then)」という膨大なルールとして記述し、特定の分野で専門家のように振る舞わせる試みであった。
この第2期では、医療診断や法律判断など、実用化への期待が高まったが、ここでも大きな壁に直面した。それは、人間が無意識に行っている膨大な「常識」を全て記述することは不可能であり、知識が増えるほど管理が困難になる「フレーム問題」や現代とはまったく異なるネットワーク帯域の狭さから「知識獲得のボトルネック」があったことだ。この2点の要因により再び熱狂は冷め、AIに2度目の冬の時代が訪れた。
【第3期】機械学習とディープラーニングの時代(2000年代後半〜2010年代)
前回のブームからさらに約20年を経た2000年代後半、ビッグデータの蓄積と「ムーアの法則」などと評された計算能力の飛躍的向上の結果、AIは冬の時代から再び抜け出した。この第3期で起こったのは、人間がルールを教えるのではなく、AIが収集したデータから自ら特徴を見つけ出す「機械学習(マシンラーニング)」への転換である。
特に2012年、画像認識コンペティションで「ディープラーニング(深層学習)」が圧倒的な成績を収めたことは、歴史的な転換点になったといわれている。これによって、AIは「猫が何たるか」を自ら学習し、認識できるようになった。
この「猫が何たるか」は、Googleの研究チーム(アンディ・イン氏、ジェフ・ディーン氏ら)による、YouTube動画からランダムに切り出した1000万枚もの画像を、1000台のサーバをつないだ巨大なニューラルネットワークに読み込ませた研究成果に基づいている。
それ以外にも、囲碁AIの「AlphaGo」が世界王者を破った衝撃もこの時期だ。現在では、チェスや将棋、囲碁などにおいて「AIと人間では勝負にならないレベル」になっている。つまり、AIは(定められた枠内でのみ実行するような)特定の領域において人間を完全に追い越した。
【第3.5期】生成AIとAIエージェントの時代(2020年代〜現在)
現在、われわれは第3期の延長線上でありながら、質的に全く異なる「第3.5期」とも呼ぶべき段階に到達した。その主役は、すでに日常的に使い始めている大規模言語モデル(LLM)を基盤とした「生成AI」である。
最大のポイントは、従来のAIが「識別(これは何か?)」や「予測(次は何が起きるか?)」に特化していたのに対し、生成AIは「創造(新しいものを作る)」という、人間にしかできないと思われていた領域に踏み込んでいることだ。
さらに、現在の潮流は単なるチャットbotから「AIエージェント」へと進化している。AIが自ら考え、ツールを使い、タスクを完結させる。この「自律性」の獲得こそが、第3.5期の真骨頂である。
現在のAIブームとそれ以前のブームとの決定的な違い
ここで、過去のAIブームと現在のAIブームの決定的な違いについて述べる。過去のブームが「特定の専門家や技術者のためのものだった」のに対し、現在のブームは「プログラミングの知識がなくとも、自然言語(日常会話)でAIを操れるようになった」ことだ。
これは文章にしてしまうとシンプルだが、「AIを利用する人数」という点が大きく異なる。筆者は、世界のプログラミング人口を完全に把握しているわけではないが、幾つかの企業が調査したデータなどではせいぜい3000万〜4000万人程度だ。それに対して、PCやスマートフォンを持つ人は、すでに世界の70%にも達している。そのPCやスマートフォンには、ごく少数の例外を除き、Webブラウザがインストールされている。Webブラウザを利用できれば、ChatGPTやGeminiなどの生成AIが使える。つまり、この3.5世代AIブームは、その対象者が50億人以上になるということだ。4000万人と50億人の差(100倍以上)がそれまでと今回のAIブームの最大の違いだといえる。
また、この第3.5期AIブームによる変革は、AI分野に限定されず、「1990年代のIT革命以来」と比較されることさえある。そうなる理由は、今回のAIブームがIT革命のそれとまったく同じ構造だからだ。現在のAIブームの本質は、その「汎用性」と「民主化」にある。これによって、AIは研究室を飛び出し、あらゆる個人の手元に届く強力な武器となったのだ。これは、1990年代に急激にインターネットが普及したのと同じ構造だ。
かつてのIT革命が情報をデジタル化し、世界をネットワークでつなげたように、現在のAIは「知能や知識そのもの」を安価かつ高速に提供されるインフラとして、全世界に提供している。私たちは今、単なるブームの渦中に居るのではなく、AIが空気のように当たり前に存在する、これによる人類史の新たなステージに立ったのかもしれない。
次回は、このAIの現在地をさらに深掘りしながら、「AIの今後」について述べていく。(次回に続く)
著者プロフィール
武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社ベリサーブ
1974年千葉県生まれ。セキュリティ分野のマーケティングスペシャリスト。次世代ファイアウォールをはじめ、さまざまな新規事業の立ち上げに従事。セキュリティに限らず、IT全般の動向にも詳しく、インターネットや書籍の執筆実績が多数あり。NPO法人日本PostgreSQLユーザ会理事。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)のワーキンググループや情報処理推進機構(IPA)の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会での講演をはじめ製品セキュリティの啓発に向け精力的に活動している。
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