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動画を撮影して手渡せる富士フイルムの新型チェキは、どうやって生まれたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(40)(3/4 ページ)

富士フイルムは2026年1月に「チェキ」の愛称で知られるインスタントカメラ「instax」の「Evoシリーズ」に動画撮影機能を追加した「instax mini Evo Cinema」を発売した。この製品はどういうコンセプトで開発されたのだろうか。その舞台裏を小寺信良氏が伝える。

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計算された動画実装

小寺 動画撮影は1回の撮影が最大15秒になっています。機能的な限界ではないと思いますが、なぜ時間を限定したのでしょうか?

嶋氏 理由は2つありまして、1つは世の中の動画の使われ方の変化があります。例えば、1970年代であれば、動画はみんなで集まって見るものだったと思うんです。昔のプロレス中継をテレビの前に集まってみんなで見るみたいな、そういうイメージです。

 そこから技術が発展してだんだん撮影機器が増えていきました。撮れる機会も増えていって、動画がどんどん個人で楽しめるものになっていきました。その流れの究極の姿が、今のショート動画の流行なのかなという風に思っています。見る側も30秒ぐらいの動画に慣れています。

 2つ目は、ユーザーの実際の動画撮影の利用状況です。ユーザーさんに「スマートフォンで撮影する動画は何秒ぐらいですか」と聞いてみると「数秒から数十秒」という方がすごく多かったんですよね。

高橋氏 ご自身のスマートフォンを見ていただいても理解できると思うんですが、長い動画を後から編集しようと思っても意外とそのまま眠ってしまっています。誰かに見せようと思っても、見せたい部分が出てきません。最初から短い動画の方が、人に見せやすく、コミュニケーションを簡単に楽しめたりするという意味では、非常に有用だなと感じています。

 動画を短くすることでより撮りたいものや伝えたいものが明確に伝わるので、そこに今回はフォーカスしました。写真1枚に動画をひも付けできるというところも、ポイントとしました。

小寺 その15秒の中でも「つなぎ撮り」ができる機能を実装されましたよね。ああいうことができるカメラはこれまでないわけで、その場で編集を意識しながら撮るみたいな方法論は、どこにヒントがあったんでしょうか。

嶋氏 そこは、8mmフィルムカメラの時代の昔の撮り方を1つのヒントとしました。昔の8mmフィルムは、動画が本当に数分しか取れないため、もったいないから大事なところだけ押して撮り、指を離して録画を止めるという撮影方法でした。

高橋氏 今回のインスタントカメラで、その場で写真も動画も渡すという使い方を考えると、もう撮っている最中に編集してしまえばよいと思いました。

 でも本人としては編集している感覚がなく、ただ撮りたいところを撮るだけで、それが結果的に編集になっているという考え方です。それと8mmカメラのボタンを押して撮る、離して止めるっていう考え方がうまくリンクしたので、より短時間で簡単に撮影と編集ができるというコンセプトが生まれてきたと考えています。

時代を撮る「ジダイヤル」という発想

小寺 このカメラのポイントは、100年分の映像の歴史をエフェクトで表現していく「ジダイヤル」という機能だと思いますが、これはどういう発想で生まれたのですか。

(※)ジダイヤル:語源は「時代+ダイヤル」。「1930」から「2020」まで10種類の時代設定が可能で、例えば「1960(8mmフィルム風)」「1970(ブラウン管テレビ風)」「1980(35mmカラーネガ風)」など、異なる時代をイメージしたエフェクトを切り替えることができる。

嶋氏 もともとEvoシリーズは、どれもアナログ操作でエフェクトを選ぶという機能が用意されていました。

 今までは静止画だったのですが「エフェクトを動画に落とし込むとどうなるのだろうか」とチームで検討した中で着目したのは、動画はさまざまな記録メディアだったりフォーマットだったり、時代における技術的な変遷がすごく激しいということでした。そして、それが特徴になっているということが分かりました。

 その表現として「ブラウン管テレビ風」と技術を直接示すこともできますが、そうではなくて「年代」として切り取った方が、その空気感のように「あの頃はあんな感じだったよね」というところまで想像を働かせることができます。一番楽しく直感的に選べる方法として、いろんな時代の特徴をイメージしたものを作るというのが、収まりが良かったということですね。

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「ジダイヤル」。10年ごとに時代に応じた映像技術の雰囲気の動画に切り替えられる[クリックで拡大]

小寺 とはいえ、映像の歴史を見た場合、そんなにうまいこと10年ごとに切り替わるかというと、そんなことはないですよね。10年を象徴する画質を決めるのは、なかなか大変だったのではないでしょうか?

嶋氏 本当に10年ごとで良いのか、どこで区切るのがいいのかというのは、まさにチーム内で議論があったところです。

 最終的には1930年から2020年までを10年刻みで表現する「10時代100年」という区切りになりましたが、そもそも最初は1930年でよいのか、最後は2020年にするべきかなど、判断に迷う要素は数多くありました。そこも含めていろいろな要素を考えた結果、やっぱりこの10年刻みが本当に感覚的に納得感があったんですよね。

高橋氏 表現が完璧にぴったり10年ごとっていうのも難しいと思っていました。その技術が出てきた時、技術が流行った時、皆さんが目にした時、全部ずれがあります。さらに国によっても違うので、その全てを成立させることはできません。

 ファッションもそうですけど、服の○○年代というのも、それが始まった年もあれば、普及した年もあります。こうしたズレはあるので、ざっくりとした「感覚値」に寄せています。アバウトに「この時代のこういう感覚」というのを楽しめるようにしようとしました。

小寺 どの時代が好まれているみたいなデータはありますか?

嶋氏 まだ発売からあまり時間がたっていないので、今はいろんなものを試していただいているところなのかなと思っています。

 個人的には私の生まれ年が含まれるのが「1990」なので、このビデオテープをイメージした映像を見ると、あの頃はこうだったなって思うことが結構あります。気になるものがあって撮りたいなと思ったら、私は「1990」が多いですね。

高橋氏 私は全部の年代が好きなんですが、1960年代が8mmの時代で、フジカシングル-8も出た時代でもあるので、そこにはこだわりを持って作り込みました。ただフィルターを載せただけではなく、粒状感だったりとか、奥行き感のようなところもうまく表現できたと思っています。

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