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鉄鋼材料の強化法鉄鋼材料の基礎知識(9)(2/3 ページ)

今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第9回は、鉄鋼材料の強化法について説明する。

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各種強化法

 前述したように、鉄鋼材料の強化は転位の運動を抑制することがカギとなります。そこで実用的に取り入れられている強化法が、以下に示す各種強化法となります。

  • 固溶(こよう)強化
  • 転位強化
  • 析出強化
  • 結晶粒微細化強化

固溶強化

 固溶強化は、母材の金属中に何らかの原子を固溶させて金属材料を強化する方法です。これはもっとも基本的な材料強化法となります。

 ここで固溶とは、母材となる金属中に母材以外の原子が溶質原子として溶け合っている状態のことを指します。固溶の形態には「侵入型」と「置換型」の2通りあります。

 前者は、図5に示すように母材の格子間に溶質原子が入り込む形態です。後者は、母材の原子が溶質原子に丸ごと置き換わる形態です。どちらの形態をとるかは、溶質原子の直径によります。つまり、溶質原子が母材の原子よりも小さい場合は侵入型を、大きい場合は置換型をとります。

図5 固溶の形態
図5 固溶の形態[クリックで拡大

 例えば炭素(C)、窒素(N)、ホウ素(B)などは原子の直径が比較的小さいため、鉄に対して侵入型で固溶します。逆にケイ素(Si)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)などは原子の直径が比較的大きいため、鉄に対して置換型で固溶します。

 これらの原子が鉄に固溶すると、結晶格子にひずみが生じます。そのひずみが転位の運動の障壁となるため、外力が加わったときに転位の運動を抑制します。これが固溶強化のメカニズムです。

図6 固溶強化のイメージ
図6 固溶強化のイメージ[クリックで拡大]

 固溶強化によってどのくらい母材金属の強度が上昇するかは、溶質原子の量やサイズが影響します。図7に各種固溶原子の鉄に対する固溶強化度を示します。鉄と原子の直径差が大きい炭素と窒素は、少量でも大きな固溶強化作用があります。リンもこれと同等の固溶強化作用があります。鉄と原子の直径がほぼ同じであるクロムは、多量に添加してもそれほど大きな固溶強化作用がありません。

図7 各種溶質原子の固溶強化度[参考文献1]
図7 各種溶質原子の固溶強化度[参考文献1][クリックで拡大]

転位強化

 転位強化は、金属材料に塑性加工を施して結晶中の転位密度を増加し、材料を強化する方法です。

 ここで塑性加工とは、材料に圧力を加えて塑性変形させ、所望の形状を得る加工法のことです。圧延や鍛造、押出しなどがこれに該当します。鉄鋼材料に塑性加工を施すと「加工硬化」することが知られていますが、硬化する理由は転位強化機構によって説明することができます。

 金属材料に塑性加工を施すと、結晶が変形することによって結晶内の転位が増量します。加工量が大きくなるほど転位が増量し、転位密度が増加します。転位は交互にからみ合って「林立転位」となり、互いに転位の運動の障壁となることで材料が強化します。これが転位強化のメカニズムです。

図8 転位強化のイメージ
図8 転位強化のイメージ[クリックで拡大]

 転位強化量は、加工量に依存します。加工量が大きいほど転位密度が多くなり、強化量が増えます。ただし、加工温度が900℃以上となる熱間加工では、転位を付与しても高温によって結晶の回復が起こるため、転位強化の効果が薄まります。加工温度が室温の冷間加工では、転位を付与しても結晶の回復が起こらないため、転位強化作用が強くなります。

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