鉄鋼材料の強化法:鉄鋼材料の基礎知識(9)(1/3 ページ)
今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第9回は、鉄鋼材料の強化法について説明する。
鉄鋼材料は優れたポテンシャルを備えた金属材料であり、製法次第で高い強度を得ることが可能となっています。例えば「マルエージング鋼」と呼ばれる鋼種(こうしゅ)は実用鋼の中でも特に高い強度があり、2500MPa(メガパスカル)もの強度があります。極細鋼線である「ピアノ線」に至っては、4000MPaを超える強度があります。普通鋼の一種であるSS400の強度が450MPa程度であるため、桁違いに高い強度があることが分かります。
連載第8回で説明したように、鉄鋼材料の強度は化学成分、組織、結晶粒径、清浄度などの因子が関与しています。実際、鋼材などの製造現場ではこれらをコントロールし、必要な強度が得られるように調整しています。より高い強度を得る方法として、各種の「材料強化法」も取り入れられています。冒頭で述べた鉄鋼材料もいくつかの材料強化法を組み合わせることで、高い強度を引き出しています。そこで今回は、鉄鋼材料の各種強化法について説明します。
強化のカギは「転位(てんい)の運動抑制」
前回説明したように、金属の変形様式は「弾性変形」と「塑性(そせい)変形」に分けられます。弾性変形とは、負荷によって材料が変形しても、除荷する(負荷をゼロにする)と材料の形が元に戻る変形様式のことです。一方の塑性変形とは、除荷しても材料の形が元に戻らず、永久的な変形を生じる変形様式のことです。通常、材料が変形するときは最初に弾性変形が生じ、そのあとに塑性変形が発生します。
ここで「強度が高い材料」とは、「塑性変形を生じにくい材料」のことです。強度が低い材料は小さな荷重でも塑性変形を生じますが、強度が高い材料は塑性変形に大きな荷重を要します。つまり、材料強化のポイントは「材料が容易に塑性変形しない状態を作ること」です。そこで、材料内部において塑性変形を担っているものは何かを考える必要があります。その担い手こそが「転位の運動」です。
転位とは?
鉄鋼材料は結晶の集合体であるため、結晶の内部では原子が規則正しく配列しています。しかし実際は、原子配列の乱れがいくつも存在します。この原子配列の乱れは「格子欠陥」と呼ばれ、字のごとく結晶格子で生じる欠陥となります。
格子欠陥は欠陥の様式により、さらに「点欠陥」と「線欠陥」に分けられます。点欠陥は点状に生じた格子欠陥であり、格子点から原子が抜け落ちたり(原子空孔)、格子点の隙間に原子が入り込んだり(格子間原子)しています。もう1つの線欠陥は線状に生じた格子欠陥であり、配列が不完全な格子が生じて断層がずれたようになっています。そして不完全な格子が生じた部分のことを「転位」といいます。
図4は、外力が加わったときの原子配列の動きを示しています。転位がある部分に外力が加わると、「すべり線」と呼ばれる架空の線状に沿って次々に原子が“すべり”、結晶格子のつなぎ替えが生じます。そして転位が横に移動していきます。これは「転位の運動」と呼ばれており、材料の変形を原子レベルで見るとこのような転位の運動が生じています。これが塑性変形のメカニズムです。
このように、材料は外力が加わると、転位の運動を利用して塑性変形していきます。従って、何らかの方法によって転位の運動を抑制することで、塑性変形を食い止めることができます。すなわち、材料強化のカギは「転位の運動抑制」となります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



