自動車産業の新たな競争構図は「フィジカルAIカー」対「エンボディドAIカー」へ:和田憲一郎の電動化新時代!(62)(2/3 ページ)
一部の中国新興メーカーを中心に、自動車は「走行するAIロボットである」という新たな概念が生まれている。この視点に立つと、自動車はロボティクスの観点から「フィジカルAIカー」と「エンボディドAIカー」という2つのカテゴリーに分けることができる。今回は、新たなフィジカルAIカーとエンボディドAIカーの競争構図について解説する。
自動車をロボティクスの視点から見ると
さて、ここで一度、自動車をロボティクスの観点から捉えてみたい。ロボット技術は多彩/多層的であるが、関連するAI技術を機能別に整理すると以下のように分けられると推定される。
1.身体の知能AI(フィジカルAI)
- 基本概念
- フィジカルAIとは、ロボットが物理世界において適切に動作するための知能を指し、力学、制御、身体性を統合することで、環境との相互作用能力を高めるAI
- 自動車における役割
- 車体(シャシー、サスペンション、モーターなど)の運動制御
- 力学的安定性、制御性能、エネルギー効率の最適化
- 走行性能および乗り心地の質的向上
2.行動の知能AI(エンボディドAI)
- 基本概念
- エンボディドAIは、物理的な身体(ロボット、センサー、アクチュエーターなど)を持ち、視覚/触覚/聴覚などのセンサー情報を統合し、実世界と相互作用しながら自律的に学習/行動するAI
- 自動車における役割
- マルチモーダル学習(視覚+触覚+聴覚)
- 自動運転の判断/行動計画が高度化
- センサーで環境を理解し、行動を学習
3.その他のAI機能
上記に加え、認識AI、言語AI、計画AI、協調AI、自己診断AIなどが想定される。
なぜフィジカルAIカーとエンボディドAIカーなのか
近年、中国の新興自動車メーカーを中心に、自動運転技術の高度化が急速に進展している。Baidu、Pony.ai、Xpeng、さらには米国のテスラ(Tesla)といった企業はその代表例であり、いずれも自動運転機能を中核とする「フィジカルAIカー」の実現を志向していると考えられる。
一方で、自動運転技術そのものよりも、AIを活用したUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上に重点を置くメーカーも台頭している。Xiaomi、Leapmotor、NIOなどが典型であり、彼らは「エンボディドAIカー」を指向するグループに位置付けられる。
搭載するAI技術としては、VLA(Vision-Language-Action)に基づくE2E(End to End)モデル、パーソナルAIアシスタントを中心に、AI音声やAIキャラクターを介したユーザーとの親和性の向上を重視している。特にXiaomiは、スマートフォンやIoT(モノのインターネット)デバイスとの連携を強化し、自動車を「走るスマートデバイス」へと進化させる方向性を明確に打ち出している。
このような戦略の背景として、Baidu、Pony.ai、Xpeng、テスラなどは、早期から自動運転分野に大規模な人材/資本投下を行い、技術開発を先行させてきた。一方で、Xiaomi、Leapmotor、NIOなどは、自動運転技術の必要性を認識しつつも、現時点では、他社との差別化を図るため、自社が強みを持つUX(ユーザー体験)領域に注力し、顧客満足度の向上を戦略的に追求していると考えられる。誤解がないように言えば、自動運転技術は後追いであり、先行集団に追い付こうと考えているグループともいえる。
結果として、自動車メーカーは、自動運転技術を最優先する「フィジカルAIカー」を目指すのか、あるいはUXを中心にスマートデバイス連携を強化する「エンボディドAIカー」を志向するのかという2つの方向性に分岐しつつあるのではないか。
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