解析データを“使い切る資産”へ AIで変わる製造業R&Dの現場:クラウド基盤が支えるエンジニアリング革新
CAE活用が広がる一方、多くの現場では、解析データが部門単位で分断され、単に蓄積されるだけにとどまっている。クラウドへの移行も進みつつあるが、データの活用には十分に至っていない。こうした課題を打開する鍵として、クラウドとAIを組み合わせ、解析データを“使い切る資産”へと転換するアプローチ、例えば、エンジニアが業務の全容を把握し、関連する全KPIを分析し、最も関連性の高い知見を関係者と共有できる状態の実現を提示しているのがRescaleだ。
製造業のR&D部門では、CAE解析が製品開発ライフサイクル全体を通じて日常的に活用されている。構造、流体、衝突、電磁界など、専門分野ごとに高度なシミュレーションを繰り返しながら、設計の妥当性検証や性能評価が行われている。適切なデータ基盤が整っていれば、エージェント型エンジニアリングとAI Physicsは、R&Dを革新する新たな好機となる。
一方で、その活用の広がりに比べて、解析によって生み出される膨大なデータの扱いはチームやシステム間で分断されており、他者が理解したり、後工程で意思決定を行ったりするために必要な文脈が欠けていることも多く、十分に活用されているとは言い切れない。
「シミュレーション結果は、その場限りの検証に使われて終わってしまうケースが少なくありません。解析データは蓄積されていきますが、それを組織的な資産として再利用する仕組みが欠けているのが実情です」と指摘するのは、Rescale Japan シニアセールスディレクターの福田敦彦氏だ。製品開発の多様化/複雑化が進む中で、解析データの再利用や横断的な活用は、多くの現場に共通する長年の課題として今なお残っているという。
こうした背景には、部門間のサイロ化や属人化の問題が横たわっている。「各部門が独自のツールやプロセスで解析を行い、その全体像を組織として統一的にマネージできていないことが、データ活用を阻む大きな要因になっています」(福田氏)
実際、解析ツールや運用ルールが部門ごとに異なり、解析データが個別に管理されている現場は少なくない。その結果、過去に得られた知見が次の設計に十分に活用されず、類似の解析や検討が繰り返される非効率な状況が続いている。
この問題の本質について、Rescale Japan エグゼクティブアドバイザーの笠健児氏は、「設計者自身がCAE解析を回しながら開発を進めることが理想とされつつも、現実には依然として設計データが主であり、解析データはあくまでその付属物という扱いにとどまっています。こうした硬直化したデータ構造のままでは、真の意味でのデジタルツインやフロントローディングは実現できません」と説明する。
解析データは、本来、設計判断の根拠そのものであり、次の設計に生かすべき知識の集合体である。この認識を改め、データの位置付けを根本から見直さない限り、R&Dの変革はこれ以上大きくは進まないだろう。
蓄積された解析データがAIによって“再利用可能なIP資産”に変わる
こうした課題を乗り越える鍵として注目されているのが、クラウド基盤とAI(人工知能)の戦略的な活用である。
クラウド環境の最大の価値は、計算リソースを必要なときに必要なだけ柔軟に確保できる点にある。オンプレミス環境のように設備制約や調達リードタイムに縛られることなく、開発スピードに応じて解析を実行できる。Time to Marketが競争力を左右する現在、解析待ちは開発のボトルネックにほかならない。
さらに重要なのは、そのクラウド基盤の上にAIを組み合わせることで、蓄積された解析データの価値が劇的に変化する点だ。
「Rescaleは2011年の設立当初から、過去の解析データをいかに検索し、再利用するかという仕組みづくりに取り組んできました。タグ付けやメタデータ管理によって過去の知見を掘り起こし、トレーサビリティー(データの出所の追跡)や再利用を容易にします。この基盤にAIを組み込むことで、データから新たな洞察を得るデータインテリジェンスが本格的に機能し始めます」(福田氏)
データインテリジェンスや自律型ワークフロー支援には主要な基盤モデルを活用する一方で、物理現象を予測するAI Physicsには独自のアプローチをとっている。具体的には、過去のシミュレーションデータで訓練されたカスタムサロゲートモデルの構築に注力しており、その実現に向けて、データをAI対応可能な構造と豊かさを与えるデータインテリジェンス基盤を重要視している。
その中核をなすのがサロゲートモデルだ。過去の膨大なシミュレーション結果を学習したAIモデルが、新たな条件に対する結果を高速に予測する。従来であれば数時間、あるいは数日を要していた解析も、条件によっては数秒レベルでの概算が可能になる。
サロゲートモデルの意義は、単なる解析時間の短縮にとどまらない。解析に時間がかかることは、設計者がCAEを使って検討を進める上での大きな障壁となってきた。結果を即座に得られる環境が整えば、設計初期の段階から条件を変えながら傾向を把握し、試行錯誤を重ねることが可能になる。「これにより、真のフロントローディングが可能になります」(笠氏)
設計の精度や質が高まるだけでなく、後工程での専任者による解析の回数ややり直しを減らす効果も期待できる。設計者による初期検討と、解析専門部署による詳細解析の役割分担をより合理的にし、組織全体として解析負荷を最適化する――サロゲートモデルは、そうした流れを後押しする可能性を秘めている。
Rescaleが提供する統合デジタルエンジニアリングプラットフォーム
Rescale Japanは2026年に設立10周年を迎える。国内企業ユーザー数は130社を超え、製造業のR&D現場において着実に導入が進んでいる。同社のRescaleプラットフォームは現在、次の5つのソリューションを提供している。(1)HPC(High Performance Computing)、(2)高度なモデリング&シミュレーション、(3)Data Intelligence、(4)AI Physics、そしてAIエージェントを用いてエンジニアリングワークフローを自動化する(5)エージェント型エンジニアリング。この包括的なプラットフォームアプローチにより、顧客に対して複合的な価値を創出する。
最初の2つのソリューション(HPC、高度なモデリング&シミュレーション)は、Rescaleプラットフォームの基盤だ。Rescaleはクラウド上に最適化されたシミュレーション実行環境を提供し、クラウドHPCによるCAE解析環境として既に多くの企業で活用されている。用途や規模に応じて計算リソースを柔軟に選択でき、解析実行を迅速に行える点が特長だ。
「Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud、あるいはGPUに特化したCoreweaveといった複数のクラウドプロバイダーやGPUプロバイダーに対して、Rescaleはニュートラルな立場を取っています。用途や要件に応じて、最適なリソースを選択できます」(笠氏)
3つ目のソリューションはData Intelligenceで、解析実行時のメタデータや実行履歴を自動取得し、コンテキストに基づいて整理/可視化する。既存の業務フローを大きく変えることなく、解析データの検索、共有、再利用を可能にする点が強みだ。
「PLMやSPDM、ワークフロー、データレイク、ストレージ製品などとも連携しながら、部門横断での解析データ活用を促進します」(福田氏)
4つ目のソリューションはAI Physicsだ。AIに関する専門知識を持たないエンジニアでも、実運用に即したAIモデルの学習とデプロイが可能となる。サロゲートモデルをはじめとするシミュレーション特化型のAI機能により、解析資産を再利用可能な知識ベースへと転換できる。
最後、5つ目のソリューションが次世代の自動化を実現するエージェント型エンジニアリングだ。Rescaleは、計算環境とデータ基盤、そしてAIを包括的に統合し、エージェンティックAIによるワークフローの自動化を含めた次世代のデジタルエンジニアリングプラットフォームを構築する。
これら5つのソリューションはシームレスに連携し、統合デジタルエンジニアリングプラットフォームとして提供される。エンジニアリングライフサイクル全体をつなぎ、デジタルスレッドやデジタルツインの実現を現実的なものとする点が、Rescaleの大きな特長だ。
さらに、Rescaleの競争力を支えるもう一つの柱が、NVIDIAとの緊密な関係である。「かつてCAE解析といえばCPUベースが主流でしたが、近年はGPUを必須とするソルバーやアプリケーションが拡大しています。Rescaleは最新のAIモデルとGPUアーキテクチャを導入するNVIDIAとともにこの変化に対応し、GPUに最適化されたシミュレーション環境を提供しています」(福田氏)
GPUを前提とした解析環境の整備は、単なる計算の高速化にとどまらない。AIを活用した新しい解析アプローチを実現するための重要な基盤でもある。Rescaleは、こうした計算環境とデータ基盤、そしてAIを一体として提供することで、エージェンティックAIによるワークフローの自動化を含めた次世代のデジタルエンジニアリング環境を構築している。
日本の製造業R&Dに求められる視点
Rescaleの価値は、既に多くの導入実績によって示されている。航空宇宙、自動車、エネルギー、材料開発といった幅広い分野で採用が進み、日本の自動車産業でも、大手OEMからサプライヤーまで導入が着実に広がっている。
導入企業では、クラウド活用によって計算リソースの制約から解放され、解析の試行回数を増やせるようになった。また、解析データを一元的に管理/共有することで、過去の検討結果を次の設計に生かす“知の循環”が生まれつつある。
一方で、日本の製造業全体を見渡すと、ダイキン工業のようにRescaleを使ってグローバルでデータ統合管理やHPC環境の最適化を進めている企業があるものの、依然としてオンプレミス環境が主流であったり、オンプレミスとクラウドのハイブリッド運用にとどまっていたりするケースも少なくない。
対照的に、米国のスタートアップや中国のEVメーカーなど、成長著しい新興企業は、当初からクラウドを前提とした開発環境を整え、圧倒的なスピードと柔軟性を武器に競争力を高めてきた。今やCAE解析を含むR&Dの在り方そのものが、企業の競争優位性を左右する時代に入っている。「日本の製造業が海外の有力ベンチャーに後れを取らないためには、今すぐに変革に踏み出すべきです」と笠氏は強調する。
こうした環境変化を踏まえ、日本の製造業R&Dには、単なる解析業務の効率化にとどまらず、解析データをいかに活用し、競争力へと転換するかという視点が求められる。そのためには、既存の解析資産や業務フローを生かしながら、将来のAI活用を見据えて段階的に変革を進めていける現実的な選択肢が不可欠だ。
その変革を後押しする存在がRescaleである。クラウド、データ管理、AIを統合した同社のデジタルエンジニアリングプラットフォームは、解析データを“使える資産”へと昇華させ、R&Dのスピードと質の両立を実現する。Rescaleが提示しているのは、製造業のR&Dが次のステージへ進むための、実践的かつ現実的なアプローチといえるだろう。
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提供:Rescale Japan株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年4月5日









