サザンに出てくる“Harbour”で「LOOKOUT」な夜間航行を試す:船も「CASE」(3/3 ページ)
小型船舶向け航行支援システム「LOOKOUT」の航行デモを乗船体験した。横浜港内における夜間航海という、見張り負荷が高まりやすい条件下でLOOKOUTがどのように周囲状況を提示し、実運用に近い環境で操船判断がどこまで機能していたのかを見ていく。
風速10m近い横浜港でLOOKOUTは使い物になるのか?
LOOKOUTのデモ航行は、横浜港瑞穂ふ頭NPバースの対岸に位置するマリーナであるUYフラッグを出港後、横浜港第三区を反時計回りに周回し、再びUYフラッグへ戻るというルート。航行速力は約6ノットとパワーボートとしては低速域での運航だが、港内という環境を考えれば、周囲状況の把握や見張り支援を検証するには適した条件といえる。
横浜港第三区を南下中。画面中央下の数値はGPSで取得した船速情報で、その左上にLOOKOUTで把握した本船が黄色のアイコンに囲まれて認識されているが、画像窓中央やや左寄りにあるはずの船体が画像と同様に肉眼では発見できなかった[クリックで拡大]
デモが行われた時間帯は12月半ばの17時半以降で、日没後の完全な夜間だった。航行中に他船と行き合う場面はなかったものの、出田町ふ頭や昭電、KDDI、大東、瑞穂物流、鈴繁といった各バースには多数の貨物船が係留されており、港としては比較的情報量の多い状況といえる。航路上を動く船が少ない一方で、船体が黒い本船が岸壁沿いに連なっているという、夜間見張りの難しさを実感しやすい状況だった。
この条件下でLOOKOUTはNight Visionモードで運用した。ディスプレイには、肉眼では輪郭を捉えにくい黒い本船が明瞭に映し出されており、視界全体が“底上げ”されるような印象を受ける。LOOKOUTの表示を通じて初めて認識できた物標は少なくなく、夜間における「気付き」の補助という点で効果を発揮していたと評価できる。
特に印象的だったのは、単純に感度を上げて全体を明るくするのではなく、港湾部特有の強い照明や建物のライトアップがあるエリアでは輝度を抑え、白飛びを回避していた点だ。背景光の多い横浜港内においても、係留船や岸壁構造物の形状が判別しやすく、画面としての視認性は良好だった。
画面上部に並ぶ付箋紙のようなアイコンはAISで認識した他船情報で、左下には船籍国の国旗を模したアイコンを用意している。画面中央にふ頭の正面が集中しているが白飛びすることなく表示されているのが分かる[クリックで拡大]
操船判断への影響について、操船者自身は「熟知した海域であるため、LOOKOUTの表示は参考情報」とのスタンスだった。一方、初めてこの水域を航行した筆者にとっては、LOOKOUTによる表示が周囲状況を把握する上で有効に機能していた。どの方向にどの規模の船舶や構造物が存在するのかを、画面上のアイコンと実際の景色を照合することで、安心感を持って把握できた点は印象に残る(なお、筆者も単独夜間航行については、東京湾や相模湾、伊豆諸島海域で多数の経験がある)。
当日は気象条件も穏やかとは言い難かった。横浜地方のアメダスでは秒速7.6mの南西風が観測されており、海上では秒速10mに近い「時化(しけ)」に相当する状況だったといえる。港内のため沖合ほどの波高はなかったが、細かい白波が立つ、いわゆる“チャッピーな海”で、23フィートの小型艇では動揺が大きく、立っているのが難しい場面もあった。そのような条件下でも、画面の視認性自体に問題はなく、大きな表示と効果的なアイコン配置が奏功していた。
画面右端に船を示すアイコンとその船体が確認できる。しかし、操舵室の正面に見える該当本船はブリッジはよく分かるものの手前に見える船体は岸壁照明の逆光になって視認しにくい。明るい港内でもこのような感じで目視による認識は難しい[クリックで拡大]
一方で、課題として明確に感じられたのがディスプレイとして使用したタブレット端末の画面の輝度だ。最低輝度設定でも夜間航海には明るく、画面を見続けた後に実際の海面へ視線を戻すと、一瞬暗く感じて視認にタイムラグが生じる感覚があった。今回のデモはNight Vision機能に絞った内容だったとはいえ、夜間見張り支援をうたう以上、表示デバイスの輝度条件は安全要件の一部として整理される必要があるだろう。
今回のデモは一部機能に限定された検証ではあったものの、夜間航行における周辺状況把握にLOOKOUTが大きく貢献し得ることは十分に確認できた。情報表示とアラートを兼ねるアイコンデザインも周囲映像を阻害しない。また、後付けが容易な構成は、特に余剰スペースの限られる小型船舶において導入を後押しする、“意外な”メリットとなるだろう。
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