最新鋭クルーズ客船「飛鳥III」で知るイマドキの操舵室:イマドキのフナデジ!(6)(1/3 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する本連載。第6回は、最新鋭クルーズ客船「飛鳥III」の「統合ブリッジシステム(IBS:Integrated Bridge System)」を紹介する。
2025年に完成した「飛鳥III」は、日本郵船グループの郵船クルーズが運航する最新鋭クルーズ客船だ。建造はドイツのマイヤー・ヴェルフトで行われ、日本船籍としては34年ぶりの新造外航客船となった。全長約230m、総トン数で約5万2200トン、乗客定員は740人で、全客室にプライベートバルコニーを備えるなど、居住性の大幅な向上を果たしている。
もともとは“製材メーカー”だったWartsilaのIBSとは?
飛鳥IIIでは、LNG(液化天然ガス)燃料を主機関に採用した他、動的ポジショニング(DP)システムとポッド推進装置を組み合わせることで狭小港湾や都市近接の寄港地でも柔軟な操船が可能になっており、停泊時の排ガス削減にも寄与している。こうした革新的な運航を支える中枢が、飛鳥IIIのブリッジに導入した「統合ブリッジシステム(IBS:Integrated Bridge System)」だ。
IBSは、複雑化する船橋上の機器を一元的に管理するため、1996年にIMO(国際海事機関)の決議MSC.64(67)Annex1で性能基準と定義が示されて以降、舶用機器メーカー各社の取り組みによって発展してきた。その中で、かつては製材メーカーであり、現在は舶用機器メーカーとして知られるWartsila(バルチラ)が、早くからIBSの概念を自社の設計思想に取り込み、航海/推進/制御/監視の情報を集中してアクセスできる相互接続モジュール群として公式に定義した。これは国際的なIMOガイドラインの枠組みにも合致しつつ、同社独自の技術体系に組み込んだといえる。
この設計思想を具体的に製品化したのが、現在の「NACOS Platinum」シリーズだ。2010年代に投入されたこのシリーズは、航海計画、レーダー、ECDIS(電子海図情報表示装置)、コンニング(CONNING、航海情報表示装置)、さらには動的ポジショニングや推進制御までを共通プラットフォームに統合し、世界各国のクルーズ船やフェリーに導入されている。2016年にはクルーズ船向けの新造プロジェクトで複数採用され、12基のマルチファンクションステーションによって各種運航情報を1画面で統合表示する仕組みが高く評価された事例もある。
WartsilaはNACOS Platinumを更新し、気象や海象を考慮して最適な航路を自動生成する「インテリジェント・ルート・プランニング」機能などを追加した。これにより、IBSは単なる情報集約装置ではなく、燃費効率や環境負荷低減を支援する高度な運航支援システムへと進化している。
飛鳥IIIで見るNACOS Platinumのシステム構成
飛鳥IIIのブリッジに採用された「NACOS Platinum」は航海、オートメーション、推進、電力管理、警報制御を単一プラットフォームに統合するのが特徴で、共通のハード/ソフト基盤上でデータをやりとりするため、高い信頼性と柔軟な拡張性を持つ。
ユーザーインタフェースはマルチファンクションディスプレイ(MFD)で統一され、レーダーやECDIS、コンニング情報、航海計画、さらにはDPシステムの操作まで1画面でシームレスに行える。操作の直感性と情報の一元化により、航海士の負担を軽減し、誤操作リスクを低減している。
飛鳥IIIのブリッジには操船指示や機関監視、船内環境、海象状況などのコンソールを前列3群、後列3卓に分散して配置している。
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