製造DXの成否は何で決まるか、「時間あたり100個できます」に隠されたウソ:“脱どんぶり勘定”の現場改善術(1)(4/4 ページ)
本連載では、製造、モノづくり領域に特化したプロ人材の伴走支援サービス「ウィズプロ」のプロフェッショナルが、現場の複雑な課題を整理し、改革を前に進めるための「実践的な手順」や「陥りやすいワナ」を具体的に解説します。今回は、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の視点から、現場の数字をどう捉え直すべきかを取り上げます。
IEは「監視」ではなく「共通言語」である
ここまで「理論原単位」の厳しさについてお話ししてきましたが、注意しなければならない点があります。それは、この理論値をそのまま現場のノルマにしてはいけない、ということです。
「理論上はもっと速くできるはずだ! なぜやらないんだ」とデータを突きつけて、現場を追い詰めるようなことはあってはなりません。IEの目的は、人を責めることではなく、「プロセス(工程)」を磨くことです。
「あなたたちの頑張りが足りない」ではなく、「理論値との間にこれだけのギャップがある。これは設備の設計が悪いのか、手順が複雑すぎるのか、一緒に原因を探そう」という対話のためにデータを使うのです。
「理論原単位」は、経営層、エンジニア、現場が対等に議論するための「共通言語」です。今までは「現場が大変そうだから無理は言えない」とか「現場はサボっているんじゃないか」といった、互いの腹の探り合いや感情論で目標が決まっていました。
しかし、「理論原単位」があれば、会話はシンプルになります。「物理限界はここまで。現状はここまで。その差の要因はAとBとC。Aは現場の工夫で埋められるが、Bは設備投資が必要、Cは製品設計の見直しが必要」。このように、誰が何をすべきかが客観的に明らかになります。これが、DX時代の健全な生産現場の姿です。
まとめ:最後に必要なのは現場を良くするための執念
「時間当たり何個できるか」。この質問に対する答え方は、その工場の、ひいてはその企業の「技術レベル」を映し出す鏡です。
「100個です」と答えるのは、過去を見ている人です。「理論値は150個ですが、現在は変動ロスにより100個にとどまっています。このギャップを埋めるために、現在データのブレを解析中です」と答えるのが、未来を作れる人です。
DXやIoTは、魔法のつえではありません。それは単なる「高解像度な測定器」です。その測定器を使って何を測るのか。どのレベルの精度で測るのか。そして、測った結果を「よし」とするのか、「まだまだ」とするのか。それを決めるのは、AIではなく、私たち人間の「意志」であり「エンジニアリングへの執念」です。
皆さんの現場には、今、「正しい基準」がありますか? 「ナリユキ」という、不正確で古い基準を頼りに歩いていませんか?
まずは、本当の「理論原単位」を知ることから始めてください。例え今の実績が60点だったとしても、100点の位置を知っているチームは、必ずそこへ近づいていけます。DXが進む今こそ、便利ツールの使い方を覚える前に、泥臭く、厳密で、うそのない「真のIE」を学び直すべき時なのです。
次回は、今回学んだ「理論原単位」の考え方を応用し、お金をかけずに生産性を劇的に向上させるIEの具体的テクニック、「ボトルネックの特定」と「工程の並び替え(PERT図の活用)」について解説します。
多くの現場で陥りがちな「直列進行の罠」を解き明かし、作業の順番をパズルのように組み替えるだけで、生産量が2割増えるカラクリを、実際の計算ワークを通して体感していただきます。DXツールを入れる前に、まずやるべきことがある。 現場の景色が一変する「IEの真髄」に迫ります。お楽しみに。
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