1990年代前半のものづくり(その2)〜宇宙機器開発とシミュレーション〜:ものづくりをもっと良いものへ(4)(3/3 ページ)
本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第4回は「1990年代前半のものづくり」をテーマに、宇宙機器開発とこれに伴うシミュレーションについて紹介する。
シミュレーション結果の検証
前項で説明したように、解析により大まかな挙動は理解できたが、定量的には課題が残った。そこで、地上で無重力環境を模擬できないか調査したところ、図6に示す落下塔を用いる方法と、飛行機による方法があることが分かった。
落下塔は、実験装置を筒に入れて地下穴に向かって落下させる方式である。ただし、単に落下させるだけでは空気と物体の摩擦による抵抗が発生し、十分な無重力状態が得られないため、下方向に加速する機構を有している。無重力の継続時間は公称値で10秒とされているが、実力値は5秒程度だ。一方、飛行機による無重力実験では、無重力継続時間は20秒程度とされている。
いずれの方法も無重力の継続時間に制約はあるが、前述の解析結果から必要な継続時間は10秒程度であったため、飛行機実験を採用した。飛行機実験には、経験が豊富なNASA(米航空宇宙局)のジョンソン宇宙センター(米国テキサス州ヒューストン)に併設の設備を用いることにした。宇宙飛行士が訓練でよく利用している設備である。
実験方法は、まず飛行機が急速に上昇し、所定の高度でエンジンを切り、弾道飛行に入る。この間が無重力状態となる。弾道飛行が終わると下降に転じるが、この際はエンジンにより下向きに急速下降し、再びエンジンを入れて上昇する。再上昇時には、地上重力の約2倍の加速度を受ける。
図7に実験の様子を示す。使用した飛行機は「Boeing 707」で、日本ではあまり見掛けないが、中国で一度利用したことのある中型機だ。搭載した実験装置は、図3に示した原理モデルと2種類のアキュムレータである。実験ではヒューストンとニューオーリンズの間を往復し、40回の実験を行った。これを3日間実施し、合計120回の実験を行った。
詳細な結果は省くが、アキュムレータの挙動は図7上段の写真(左:減衰要素なし、右:減衰要素あり)に示す通り、解析で予測したものに近い結果が得られた。
この装置の設計では宇宙環境下での挙動を十分に考慮したが、実際に宇宙空間でも同様に動作するかどうかの保証はない。NASAの宇宙機器開発では、こうした不確実性も想定し、事前にリスク解析などのシステムズエンジニアリングを行っていることを知ったのは、10年後のことである。
次回は「製図法から設計工学へ」をテーマに取り上げる。 (次回へ続く)
筆者プロフィール:
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
- 最新著書:1Dモデリングの方法と事例(日本機械学会)
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi3@outlook.jp
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