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1990年代前半のものづくり(その2)〜宇宙機器開発とシミュレーション〜ものづくりをもっと良いものへ(4)(2/3 ページ)

本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第4回は「1990年代前半のものづくり」をテーマに、宇宙機器開発とこれに伴うシミュレーションについて紹介する。

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宇宙機器設計の事例

 一般に、宇宙ステーションの排熱は、内部排熱システムで集められた熱を外部排熱システムに送り、ラジエータから真空の宇宙空間へ放射することで行われる。そこで、内部、外部を問わず、宇宙環境下で作動する排熱システムを設計した。図3にその原理を示す。

排熱システムの原理図
図3 排熱システムの原理図[クリックで拡大] 出所:K. Ohtomi et al., Study on the dynamics and the controllability of a mechanically pumped two-phase thermal system, Space Utilization and Applications in the Pacific, volume 73 Advances in the Astronautical Sciences, American Astronautical Society Publication, 425-440, 1989

 宇宙環境では自然対流による排熱ができないため、冷媒を循環させる、いわゆる強制対流による排熱システムとなる。図3に示す装置の特徴は、排熱に冷媒の相変化を利用し、大容量の排熱を行うことを想定している点にある。冷媒は宇宙環境下ではアンモニアが使用されるが、ここでは水を使用した。蒸発部、二相流部、凝縮部は、地上でも宇宙環境下でも挙動に差が出ないよう、配管内壁に表面張力によって液体が張り付く構造とした。唯一の懸念は、アキュムレータ内の冷媒が宇宙環境下でどのような挙動を示すかという点であった。

宇宙機器環境下の現象のシミュレーション

 前項で、アキュムレータ内の流体の挙動が地上と宇宙環境で異なると想定された。そこで、3D流体解析を行うことにした。解析は、アキュムレータ内壁に何もない場合と、アキュムレータの下半分に金属メッシュによる抵抗体がある場合の2ケースを実施した。図4に解析条件を示す。宇宙ステーションが重心周りに動いたときのアキュムレータ内の挙動を求めた。

 宇宙環境では表面張力が顕在化するため、液体と固定壁の間の表面張力を接触角で定義した。また、金属メッシュの影響は、その部分の流体の粘性係数を大きくすることで模擬した。接触角および粘性係数については、さまざまにパラメーターを振り、確からしい値を用いた。なお、アキュムレータの内径は0.7ft(フィート)、高さ方向の下部0.4ftに流体が存在し、下半分には金属メッシュが充填(じゅうてん)されている。Osは宇宙ステーションの回転中心を示す。

解析条件
図4 解析条件[クリックで拡大] 出所:K. Ohtomi et al., Study on the dynamics and the controllability of a mechanically pumped two-phase thermal system, Space Utilization and Applications in the Pacific, volume 73 Advances in the Astronautical Sciences, American Astronautical Society Publication, 425-440, 1989

 図5(a)に、減衰要素(金属メッシュ)がない場合の解析結果を示す。想定したように、宇宙環境では表面張力が顕著になるため、流体は外乱によってアキュムレータ内壁に沿って移動していることが分かる。

減衰要素がない場合
図5(a) 減衰要素がない場合[クリックで拡大] 出所:K. Ohtomi et al., Study on the dynamics and the controllability of a mechanically pumped two-phase thermal system, Space Utilization and Applications in the Pacific, volume 73 Advances in the Astronautical Sciences, American Astronautical Society Publication, 425-440, 1989

 一方、図5(b)に、減衰要素(金属メッシュ)がある場合の結果を示す。金属メッシュによる流体抵抗が表面張力を上回るため、地上に近い現象が再現できている。

減衰要素がある場合
図5(b) 減衰要素がある場合[クリックで拡大] 出所:K. Ohtomi et al., Study on the dynamics and the controllability of a mechanically pumped two-phase thermal system, Space Utilization and Applications in the Pacific, volume 73 Advances in the Astronautical Sciences, American Astronautical Society Publication, 425-440, 1989

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