三菱電機の独自フィジカルAI、予防保全で学習データを9割削減し精度を3割向上:人工知能ニュース(2/2 ページ)
三菱電機が新たに開発した「物理モデル組み込みAI」について説明。対象機器の動作や制御に関わる物理モデルの理論式を組み込むことで、予防保全に必要な機器の劣化を推定するAIモデルの開発に必要な学習データの量を約90%削減するとともに、劣化推定の精度を約30%向上できた。
三菱電機の産業用ロボットで実証
この物理モデルを利用することで、大量のデータがなくても大まかな物理挙動を事前に推定できる。さらに少量の実測データを用いることで、機器個体差や環境変動といった物理モデルに基づく挙動推定に対するデータの傾向変動も推定できるようになる。この物理挙動と傾向変動を基にすれば正常範囲を設定可能であり、未学習の運転パターンなどの外挿にも対応できるという。
この物理モデル組み込みAIの効果を確認するため、潤滑剤を除去した三菱電機の産業用ロボットの軸摩耗を推定するAIモデルを構築する実証実験を行った。まず、少量のデータで機器の劣化を推定できる点については、ガウス過程回帰を用いた機械学習でAIモデルを構築するのと比べて、物理モデル組み込みAIは必要な学習用運転データの量を約90%削減できた。
さらに、異なる運転パターンでも高精度な劣化推定を行える点については、二値分類モデルの性能評価に用いられるROC曲線に基づく評価を行った。ガウス過程回帰を用いた機械学習によるAIモデルでは曲線下面積が0.68〜0.89だったのに対し、物理モデル組み込みAIはほぼ全件を正しく分類したことを示す0.98〜1.00を達成した。
異なる運転パターンにおける劣化推定の比較。ガウス過程回帰を用いた機械学習(左)は正常範囲が正常な実測データから大きく離れているため誤推定が発生している。一方、物理モデル組み込みAIは適切な劣化推定が行えている[クリックで拡大] 出所:三菱電機
なお、今回開発した物理モデル組み込みAIは、汎用PCを用いて推論実行することが可能だ。「今後実機評価を重ねる中で軽量化することも可能だろう」(毬山氏)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
三菱電機は“現場の負担減らす”FAデジタルソリューション、ラダー生成AIも披露
三菱電機は「IIFES 2025」において、SaaS型FAデジタルソリューションや開発中のラダーコード生成AI、最新制御機器などを訴求した。
“縦割り組織”にメスを、三菱電機が「インナーソース」活用で開発リードタイム半減へ
三菱電機は「InnerSource Summit 2025」に先立ち、戦略説明会を実施した。デジタル基盤「Serendie」事業の一環としてオープンソースとインナーソース活用を推進し、部門間のサイロ化を解消。2030年までに開発リードタイム半減を目指す。
言語の壁をぶっ壊す! 三菱電機が世界初の「しゃべり描き翻訳」を発売へ
三菱電機は生産現場における外国籍従業員との円滑なコミュニケーションを実現するとともに作業品質や安全性の向上などに貢献する「MelBridge(メルブリッジ) しゃべり描き翻訳」を発売すると発表した。
三菱デジタル基盤「Serendie」を活用、“AIが見守る”止まらない放電加工機へ
三菱電機は、三菱電機メカトロニクスフェア(MMF2025)の開催に先立ち、記者会見を開き、新たな放電加工機やMMF2025の概要について説明した。
三菱電機が2つの技術でエッジ動作可能なLLMを高精度化、2026年度にも製品適用へ
三菱電機がエッジデバイスで動作する製造業向け言語モデルを開発。オープンソースのLLM(大規模言語モデル)をベースにエッジデバイスで動作可能とするとともに、タスク正解率をベースモデルの35.8%から約40ポイントの改善となる77.2%に向上した。
そのAIは期待通りに動く? 三菱電機が短時間の検証技術を開発
三菱電機はAIの動作を短時間で漏れなく検証する技術を開発した。






