ギガキャストの超巨大ダイカスト成形機「ギガプレス」はどうやって作られたのか:いまさら聞けないギガキャスト入門(3)(5/6 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第3回は、ギガキャストに用いられる装置である超巨大ダイカスト成形機「ギガプレス」を実現した、イタリアのIDRAとFSAの取り組みについて解説する。
7.ギガプレスにおけるモジュール設計
ギガプレスは、IDRAをFSAの中心的な存在としながら、FSAパートナー(Stotek、Fondarex、Wollinなど)がそれぞれ専門のモジュールを提供する「オープンなモジュール設計」※7)の代表例となっている。
この「オープンなモジュール設計」の特徴とメリットは下記に示す通りである。
- 特徴
- 標準化されたインタフェース:モジュール同士が接続される部分は、業界標準に準拠したインタフェースを介して接続される
- 部品の独立性:各モジュールは、他のモジュールに影響を与えずに開発、テスト、製造できる
- 部品の相互性:規格化されたインタフェースを持つ部品を容易に作成/入手し、組み合わせることで、多様な製品バリエーションやシステムを効率的に構築できる
- 拡張性:新たな機能追加や変更が必要な場合、既存モジュールを改変するのではなく、新しいモジュールを追加するだけで対応できるため、システムの柔軟性が高まる
- メリット
- 開発の効率化:各モジュールを個別に開発できるため、開発工数を削減できる
- コスト削減:共通化されたモジュールを再利用することで、製造やテストのコストを削減できる
- 柔軟な拡張と保守:既存のシステムに影響を与えずにモジュールを追加できるため、システムの拡張や保守が容易になる
- 製品の多様化:互換性のあるモジュールを組み合わせることで、顧客の要求に合わせた多様な製品を迅速に提供できる
※7)オープンなモジュール設計とは、システムを標準化されたインタフェースを持つ独立した部品(モジュール)に分割し、互換性のある部品を組み合わせて多様な製品やシステムを構築する設計手法。この設計により、各モジュールは独立して開発、テスト、製造できるため、開発の効率化、コスト削減、柔軟な拡張が可能になる。
表6では、ギガプレスにおけるIDRAとFSAパートナーの役割、提供技術/製品の詳細、モジュール設計における主な貢献を工程順に示す。
| 工程順 | 企業名(本社) | 専門分野(FSAにおける役割) | 提供技術/製品の詳細 | ギガプレスへの主な貢献(モジュール設計) |
|---|---|---|---|---|
| 1.溶融/供給 | Stotek(デンマーク) | 溶解/保持/定量給湯技術 | Dosotherm(定量給湯炉):±1%の給湯精度※8)と±1℃の温度管理により、溶湯の正確な量とタイミングでの供給を保証 高効率な溶解炉/保持炉を提供し、エネルギー消費を大幅に削減 |
溶湯品質の安定化と、ギガプレスへの高精度/連続的な溶湯供給モジュールを担う |
| 2。真空処理 | Fondarex(スイス) | 真空システム | HIGHVAC/VACUUM SYSTEM:金型キャビティ内の空気やガスを吸引し、鋳造欠陥(ポロシティ)を最小化 T5/T6熱処理が可能な高強度アルミニウム部品の製造を可能にする |
鋳造品の機械的特性と強度を向上させるための必須モジュール |
| 3.成形ツール | Costamp Group(イタリア) | ダイカスト金型設計/製造 | 大型/高耐久性HPDC金型:特にバッテリーハウジングや大型構造部品(ギガキャスト)向けに、高精度で長寿命の金型を提供 CAEシミュレーションと試作サービスによるプロセス最適化 |
ギガプレスの能力を最大限に引き出すコア成形ツールおよび5Sインジェクションテスト協力モジュール |
| 4.成形/射出 | IDRAグループ(中核) | ギガプレス本体/制御 | GIGAPRESS DCM:超巨大な型締力と、5Sインジェクションシステム、DCP油圧システムを提供 IDRAセルコントローラーによる全工程の統合制御 |
一体型シャシー製造の核となるシステム自体を提供 |
| 5.スプレー処理 | Wollin(ドイツ) | スプレー/自動化技術 | CNC制御スプレーシステム:金型へ離型剤を正確かつ均一に塗布し、金型温度を最適化 取出機(Extractor/Robot)を含むフルオートメーションセルの構築 |
サイクルタイムの短縮と、鋳造プロセス安定化のためのスプレーモジュール |
| 6.焼き戻し/冷却 | I.E.C.I. | 焼き戻しシステム | クエンチングシステム:鋳造後の部品を迅速に冷却し、部品の強度と組織を制御する熱処理を行う | 最終製品の構造強度を保証するための熱処理モジュール |
| 7.後処理/トリム | Meccanica Pi.Erre(イタリア) | トリミングプレス/機械加工 | 油圧/機械式トリミングプレス:鋳造後の製品からバリやランナーを迅速かつ高精度に除去 部品形状に合わせたカスタムトリミング金型を提供 |
鋳造品の仕上げ加工と、最終的な品質確保のためのモジュール |
| 8.排気/熱回収 | KMA Umwelttechnik(ドイツ) | 排気ろ過/熱回収システム | 静電フィルター:油煙、ミスト、煙を高い効率でろ過し、フィルター交換コストを削減 熱回収システム:排熱を再利用し、エネルギー消費量とCO2排出量を大幅に削減する |
環境持続可能性とランニングコスト削減を達成するためのエコ効率モジュール |
| 表6 ギガプレスにおけるIDRAとFSAパートナーの役割、提供技術/製品の詳細、モジュール設計における主な貢献 | ||||
※8)給湯精度の意味給湯精度における「精度」は、制御された値(この場合、温度)の正確さを表す。
1.定義では設定温度をTsetとすると、±1%の給湯精度が意味する実際の給湯温度の範囲Tactualは以下の通り。Tset×(1−0.01)≦Tactual≦Tset×(1+0.01)
2.具体的な例では、例えば、給湯器の設定温度が40℃の場合。許容される温度変動幅(1%):40℃×0.01 = 0.4℃。実際の給湯温度の許容範囲:40℃−0.4℃≦Tactual≦40℃+0.4℃すなわち、39.6℃≦Tactual≦40.4℃。この給湯器は、水圧や水量の変動、季節による外気温の変化などがあっても、給湯中に実際の温度を39.6〜40.4℃の間に維持できる性能を持っていることになる
3.重要性給湯精度が高いほど(±の数値が小さいほど)、ユーザーは安定した快適な温度でシャワーや入浴を楽しむことができる。特に、大容量の湯を使用する場合や、精密な温度管理が求められる産業用途において、この精度は非常に重要となる
表7はモジュール設計の主なメリットを示す。
IDRAはDCM本体と中央制御(セルコントローラー)という中核モジュールを提供し、周辺機器メーカーは溶融炉モジュール、真空モジュール、トリミングモジュールといったプロセス特化型モジュールを提供する。これにより、顧客は「コア技術はIDRAの最高性能、周辺プロセスは各分野の世界トップメーカーの技術」という最適な組み合わせを選べるようになっている。
| メリット | 説明 | ギガプレスへの適用例 |
|---|---|---|
| カスタマイズ性/多様性 | 標準化されたモジュールを組み合わせることで、1つの基本設計から、顧客の異なるニーズ(例:型締め力や射出量)に対応した多様な製品バリエーションを効率よく提供できる | IDRAが提供するギガプレスのラインアップ(NEO 5500〜NEO 9000など)や、顧客の要求に応じた周辺機器の組み替え |
| 開発効率とコスト削減 | 新しい製品を開発する際、ゼロから設計し直す必要がなく、既存のモジュールを再利用できる。これにより、開発期間の短縮と開発コスト/リスクの低減につながる。 | FSAパートナー(Stotek、Fondarexなど)が各自の専門モジュールを開発し、IDRAがそれを組み込むことで、IDRAの独自開発リスクを軽減 |
| メンテナンス性 | 故障が発生した場合、システム全体ではなく、問題のあるモジュールだけを特定して交換/修理できるため、ダウンタイム(稼働停止時間)を最小限に抑え、メンテナンス作業が容易になる | 故障したポンプユニットや制御システムを迅速に交換し、ギガプレスの稼働率を維持 |
| 表7 モジュール設計の主なメリット | ||
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