ギガキャストの超巨大ダイカスト成形機「ギガプレス」はどうやって作られたのか:いまさら聞けないギガキャスト入門(3)(3/6 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第3回は、ギガキャストに用いられる装置である超巨大ダイカスト成形機「ギガプレス」を実現した、イタリアのIDRAとFSAの取り組みについて解説する。
3.ギガプレスにおけるIDRAとFSAパートナーの役割
ギガプレスの成形工程の主な順序は、次回の第4回で詳述する予定だが以下のようになっている。
- (1)型締め中の溶融/供給
- (2)型締め中の真空処理
- (3)型締め/型締め中の成形/射出
- (4)型締め/型締め中の成形ツール
- (5)型開き中のスプレー処理
- (6)成形後の成形品の焼き戻し/冷却
- (7)成形品の後処理/トリム
- (8)特に型開き中の排気/熱回収
- +(9)全工程のシステム統合
表3は、上記に基づき、ギガプレスの成形工程順における、IDRAとFSAの主要パートナー連携企業体の詳細な役割を整理したものである。ギガプレスにおけるモジュール設計については後述するが、このモジュール化されたシステムは、自動車の大型構造部品の大量生産に最適化されている。
| 工程順 | 企業名(本社) | 役割(提供技術/システム) | 詳細な貢献内容 |
|---|---|---|---|
| (1)型締め中の溶融/供給 | Stotek(デンマーク)、StrikoWestofen(IDRAグループ) | 溶解炉および溶湯供給炉の提供(セル内溶解ソリューション) | 必要な量の溶融アルミニウムを、ダイカストセル内で効率的に溶解/保持し、DCM(ダイカストマシン)へ正確かつ安定的に供給。大量の溶湯輸送を不要にし、溶湯品質の維持に貢献 |
| (2)型締め中の真空処理 | Fondarex(スイス) | 真空システム | 溶融金属の射出前に金型キャビティ内の空気を吸引/除去。鋳造品へのガス巻き込み(気孔)を最小限に抑え、部品の機械的強度と品質を向上させる(ギガプレスの主要な課題解決に貢献)。 |
| (3)型締め/型締め中の成形/射出 | IDRAグループ(中核) | ギガプレスのDCM本体、5Sインジェクションシステム、DCP油圧システム | DCMによる超強力な型締め、高圧/高速射出(5Sシステム)およびエネルギー効率の高い駆動制御(DCP)を提供。大型・薄肉の構造部品を一体成形 |
| (4)型締め/型締め中の成形ツール | Costamp Group(イタリア) | 金型(成形ツール)の設計/製造 | ギガプレスで大型構造部品を鋳造するための超巨大かつ高精度な金型を提供。IDRAと連携し、5Sインジェクションシステムの実機テストと最適化を支援 |
| (5)型開き中のスプレー処理 | Wollin(ドイツ) | スプレーシステム | 鋳造サイクルごとに金型表面に離型剤を正確かつ均一に塗布。鋳造品の離型を容易にし、金型の温度を調整することで、サイクルタイムの短縮と金型寿命の延長に貢献 |
| (6)成形後の成形品の焼き戻し/冷却 | I.E.C.I.(イタリア) | 焼き戻しシステム(クエンチング) | 成形された高温の鋳造品を急冷(クエンチング)し、部品の強度向上や組織変化といった熱処理を行う |
| (7)成形品の後処理/トリム | Meccanica Pi.Erre(イタリア) | トリムおよび後処理システム | 鋳造後に製品から不要な部分(湯口、押湯、バリなど)を切り離すための機械式トリムプレスなどのシステムを提供 |
| (8)特に型開き中の排気/熱回収 | KMA Umwelttechnik(ドイツ) | 排気フィルターおよび熱回収システム | ダイカストプロセスで発生する排気ガスやヒュームを浄化し、環境規制に対応。同時に排熱を回収してエネルギー効率の向上に貢献 |
| (9)全工程のシステム統合システム統合 | IDRAグループ(中核) | IDRAセルコントローラー | 上記全ての周辺機器とDCMを統合/監視する中央制御ユニット。シームレスなデータ交換を実現し、OEE(総合設備効率)の最大化とインダストリー4.0への対応を保証 |
| 表3 ギガプレスの成形工程におけるIDRAとFSAパートナーの役割 | |||
ここで注意すべき要点として、この表3は、ギガプレスが単なるダイカストマシンではなく、複数の専門技術がモジュール的に統合された完全な生産セルであることを指摘しておきたい。
- IDRAは、DCM(ダイカストマシン)本体とシステム統合の核となる役割を担う
- FSAパートナーは、溶融/真空/金型/冷却/後処理といった、鋳造品質と効率を決定づける重要なプロセス技術を分担して提供
- 特にFondarexの真空システムとCostampの金型技術は、従来のHPDC(高圧ダイカスト)の弱点である気孔の問題を克服し、ギガプレスの目的に不可欠な「欠陥のない一体型シャシー」の製造を可能にする上で極めて重要
4.IDRAグループとFSA加盟企業の役割
繰り返すが、ギガプレスのような超巨大機械は、図1および表2に示したように、IDRAだけの技術できているわけではない。
IDRAはFSAというパートナー連携企業体と協業している。このパートナー連携企業体は、いわば、中世期に始まったギルド※3)のようなものであろう。日本には、例えば自動車工業会というものがあるが、各企業がある一つの目的のために協業するという習慣は育っていない。わずかに、トヨタ自動車が国内550万人の雇用のために……と言っているにすぎない。協業といっても、2〜3社間でのモノづくりに限られているように感じられる。将来に向けた日本のモノづくりという観点からは、この状況に大きな危うさを感じるのは筆者のみであろうか。
※3)ギルド(英語:guild、ドイツ語:Zunft、イタリア語:arti)は、中世より近世にかけて西欧諸都市において商工業者の間で結成された各種の職業別組合。商人ギルド/手工業ギルド(同職ギルド)などに区分される。一般に封建制における産物とされる。現在における職能団体の源流である。
それ故に、ギガキャストのエッセンスである超巨大ダイカスト成形機開発に対するテスラ CEOのイーロン・マスク氏からのオファーに対して、日本や、日本ダイカスト協会が、答えられなかった事実は、今後の同業種企業の連携の在り方について、大きな問いかけになったのではなかろうか。日本も国として、日本人として、反省すべきであり、由々しき問題として認識しなければならない。敗戦後80年以上もたって、変わらぬ日本の社会、国家組織、官僚、民間企業の一人一人の意識改革と変革が問われることにつながるのではないかと個人的には受け止めている。
話を戻す。
IDRA単独でダイカスト機を作るだけでなく、FSAの各社がそれぞれ専門分野を持ち寄って「鋳造セル(機械+補助装置群)の統合ソリューション」を提供する体制を作ろう、という戦略である。FSAは、ダイカスト業界の機械本体と補助装置のサプライヤー協力企業体であり、その補助装置が一つでも欠ければ、ギガプレスは機能を果たすことはできない重要要素である。ただし、IDRAはグループ会社を有しており、図1に示した(2)はそのグループ会社の一つであることを付言しておく。
ギガプレスに関する開発プロジェクトは、図3に示すようにIDRAのパートナーであるFSAで研究され、長い間テストされており、実際にプロトタイプが生産されてから既に3年が経過している。
FSAの主な目標は以下の通りである。
- (1)イノベーション(革新):FSAは、より速く、より強力に前進するために、総合的なリソースと特定のテクノロジーを結集している
- (2)市場投入までの時間:急速に進化する市場において、FSAは協力して将来を予測し、最初に成果を届ける
- (3)グリーンな未来:FSAのパートナーは、私たちの環境を大切にし、地球のより明るい未来に向けて取り組んでいる。力を合わせれば、より多くのことが実現できる
- (4)ターンキーソリューション:さまざまなスキルと専門知識により、:お客さまのさまざまな課題を解決するソリューションを提供できる
以下に、FSAの加盟企業とそれぞれの役割/強みを整理し、IDRA+FSA体制がどのようにダイカストマシン+周辺補助装置の統合を実現しようとしているかを分かりやすく説明する。
FSAとは
- FSA(Foundry Star Alliance:直訳すれば製造工場星同盟)は、軽合金高圧ダイカスト(HPDC:High Pressure Die Casting)装置分野でリーダー的な役割を持つ企業同士が連携し、「鋳造機+補助装置群を含む完全な鋳造セル(Casting Cell)ソリューション」を提供することを目指す独立した協業体である
- IDRA自体もFSAの創立/中心企業の一つで、「機械装置(ダイカストプレス本体)」を提供する役割を担う
- FSAの加盟企業は、溶湯炉/溶湯供給、金型設計/金型メーカー、真空装置、温調機器、スプレー装置、排気/熱回収設備、トリミング/後処理装置など、鋳造工程の各補助分野を専門とする会社が多数含まれている
- FSA加盟企業の協業により、IDRAの製造機械を中心に、補助装置をFSAのネットワークから最適構成で統合して納入できる体制を目指しているというのが基本戦略である
- FSAの公式説明には、「各社をリーダー分野で結び付け、軽合金高圧ダイカスト(Light Alloy HPDC)に対して最適なサポート体制を提供」する旨が紹介されている。
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