住友ゴムが非熟練者でも配合レシピ設計期間95%削減可能に:マテリアルズインフォマティクス(3/3 ページ)
住友ゴムがNECとの共創により、非熟練者でも材料開発で重要な配合レシピ設計の期間を95%削減できる技術を開発した。その技術や両社の共創について迫る。
待望の逆解析を実現
両テーマに取り組むに当たり、共通コア技術として、疑似量子アニーリングや材料探索ソリューションの先行開発を実施している。
疑似量子アニーリングは量子コンピュータと同じモデルを一般的なコンピュータで解くため「疑似量子」と呼称されている。疑似量子アニーリングを活用することで、目標特性から最適なゴム配合レシピを超高速探索するマテリアルズインフォマティクスの構築を目指している。
両社は疑似量子アニーリングを用いて既存プレミアムタイヤの配合を探索できるのか検証した。同検証では、まず過去の膨大なデータから素材と特性値の傾向を抽出。次に、抽出結果から疑似量子アニーリングで目標特性を実現する配合レシピを探索した。
その結果、数十種の目標特性を90%以上満たす配合を多数予測でき、非熟練者でも配合レシピ設計の期間を95%削減可能だと分かった。
材料探索ソリューションは国内外の文献情報と社内知識を融合したデータや、研究者の思考プロセス(暗黙知)を導入したAIエージェントで、生成AIやグラフベースAIで構成される。
両社は、あらゆる道にシンクロするタイヤ用ゴム材料「アクティブトレッド」の「水スイッチ」の材料探索が材料探索ソリューションで可能かを検証した。アクティブトレッドは、水に接触することでゴムが軟化し滑りにくくなる水スイッチと、低温になるとゴムが軟化する「温度スイッチ」の2種類がある。
同検証では、まず研究開発者の思考プロセスや材料選定基準などを抽出し、材料探索ソリューションに学習させた。次に、その材料探索ソリューションが生成AIで水スイッチに関する要望解釈データを収集。続いて、このデータに基づき、グラフベースAIが構造化された材料データベースを作製した後、組み合わせ候補材料のランキングリストを生成した。同検証の結果、材料のランキングリストでは、水スイッチの組み合わせ候補材料が上位にランクインしており、探索可能だと分かった。さらに、探索期間を60〜70%削減できることも確かめた。
住友ゴム 研究開発本部長の上坂憲市氏は「当社ではこれまで、配合レシピをシステムに入力すると、そのレシピで製造された素材の物性が出力されるというマテリアルズインフォマティクスを中心に行っていた。つまり、一方向の使い方だった。目標の物性を備えた素材を製造するために適した配合レシピをアウトプットできる逆解析のシステムも求めていたが、開発がうまくいかなかった。そこで、NECの疑似量子アニーリングを利用したところ、水スイッチの組み合わせ候補材料の検索で成果を出せた」と話す。
今後、住友ゴムでは、事業企画機能と研究開発機能の中核に疑似量子アニーリングや材料探索ソリューションを位置付け、タイヤ材料開発以外にも広く展開する考えだ。
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